障害者施設での死亡事故のリスク
川崎市の障害者施設で、9歳の男の子が心肺停止の状態になり、病院に搬送され、死亡が確認されました。警察によると、死因は窒息死の疑いがあるとのことです。
20代の女性職員が男の子に覆いかぶさったことで窒息したと報道されています。寝かしつけるために添い寝をしていたが、その後、寝てしまい、職員が目を覚ますと男の子に覆いかぶさった状態だったといいます。
なぜ、このようなことが起きたのか?
私は、このニュースを見て、職員の疲れ果てた様子を想像しました。
- なんで添い寝をした状態で、寝てしまうのか
- そんなことはあり得ない
外部の人はそう思いやすいです。
私も最初はそう思いました。
でも、時は年末、
ただでさえ人手不足の福祉職場は、さらに人手が足りません。
まして夜勤というのは、日勤よりも体制は手薄なのが普通です。
添い寝する必要性があったのか
というところが、この事件の肝ですが、事の真相はともなく、利用者死亡という重大な結果を招くルートができていたというところに目を向けるべきです。
添い寝の必要性が、あろうがなかろうが、それができる体制になっていた訳ですから、今後、添い寝を禁じたところで、添い寝による事故が減るだけです。他にも死亡事故の要因はあります。
添い寝をした職員が、意図してこのような結果を招いたというなら話は別ですが、そのようなことはおそらくないでしょう。
きっと、まじめな職員であったと思います。
ですが、今回の事件によって、彼女は辞めざるを得ないのではないでしょうか。
私だったら、辞めます。
法的に、雇用が保障されるのかとか、責任をとるためとか、そういう問題以前に、もうその職場にいられないと思います。
つまり、業界からの引退です。
もちろん、これは「私だったらそうする」という話ですので、人によっては、もしくは職種によっては、異なる判断をすることもあるでしょう。
例えば、医師が手術中に患者を死亡させたとして、業務上過失致死に問われたとしても、医療の業界を引退することは少ないでしょう。
でも、福祉の仕事の場合は、業務上過失致死ならば引退の可能性は大です。
そもそも、こんな事故を起こさないで済むことが一番ですが、どんなに注意をしていても、死亡事故の起きるリスクはゼロにはなりません。
よく
介護の仕事は、人の命を預かる
という言い方がありますが、こういうこと(死亡事故)なんです。
職場の研修なんかでは、
- 人権を尊重しましょう
- コミュニケーションをとりましょう
- 移乗の方法をこうしましょう
とかいいますけど、
死亡事故を起こしたら、どう対処するか
なんてことは研修ではやりません。
事故は起きない前提なのです。
私は、今回の事故における要因の一つは、人手不足ではないかと思っています。
介護職場だけでなく、障害者施設の職場も慢性的な人手不足です。
今回は、そこに時期的な要素も加わりました。
死亡事故を無くすための取り組みは、一職員の心構えやスキルだけでなんとかなるものではありません。
今回の事故は、もっとも優先しなければならない問題が、もっとも後回しにされていることの例であるといえましょう。
障害者施設での死亡事故が起きるケースは、添い寝による窒息だけでなく、細かいところを挙げればたくさんあります。
これは、私の職場にある移動リフトの図です。(絵が下手ですみません)
電動リフトで、介助者はボタンでリフトを上げ下げする操作をします。
ベルトが両脇と膝に通してありますが、万歳の姿勢をすると落下する可能性があります。
吊っているいる常態で、発作がおきるなどすると危険です。
一歩間違えば死亡事故がおきる事例です。
次に、これは、外出したときの例ですが、駅のホームは緩やかな傾斜があって、車いすから手を離す時は、必ずロックする必要があります。
これも、万が一でホームに落下する危険があり、電車が来たらそこでアウトです。
そんなことは、基礎的なことだから事故なんて在り得ないと一蹴することも可能です。
しかし、あわただしい業務のなかで様々な人の手を介在し、日々このような介助をしていますので、私はこうしたリスクを避ける視点こそ大切だと考えます。
人権とか、ホスピタリティとかは、怒られるかもしれませんが、正直二の次です。
まずは、利用者を怪我させないようにする視点が大切です。
怪我をさせてしまったら、他にどんなに良いサービスを提供していたとしても、全てが水の泡なのです。
現場に埋もれて、日々に業務に追われていると、本来の優先順位が違ってくることがあります。
- 職場の方針に逆らえなかった
- 先輩の言うことに反対するという発想がなかった
といったことが起きます。
でも、死亡事故を起こさないためには、職場のルールや圧力に背くという発想も、時に必要です。
もし、職場が過労を強いるような環境であり、それが変わらないのであれば、職場を立ち去ることもあり得る選択肢です。
死亡事故を起こすよりは、ましです。
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