社会福祉士にカウンセリングの技術は必要だと思いますか?
最近、興味深いニュースがあったのでご紹介します。
「養子縁組成立せず苦痛」東京の夫婦があっせん側を提訴
2016年11月26日11時19分
あっせんされた特別養子縁組が成立せず精神的苦痛を受けたなどとして、東京都の夫婦が、千葉県四街道市の民間団体「赤ちゃんの未来を救う会」(9月に解散)に対し、支払った費用や慰謝料など計約600万円の損害賠償を求める訴訟を千葉地裁佐倉支部に起こした。提訴は21日付。
訴状によると、夫婦は同会から「優先的にあっせんを受けられる」などと説明され、4、5月に計225万円を支払い、6月に子どもを引き取った。しかし、生みの親が「最終的な同意の確認がされていない」と主張。7月に子どもは生みの親の元に戻された。夫婦側は「生みの親は、社会福祉士のカウンセリングを受ける機会を与えられないなど、極めてずさんなあっせんに強い不信感を抱いて子どもの返還を求めた。このため返還せざるを得なかった」と主張している。
同会の理事だった男性は朝日新聞の取材に「訴状が届いていないので回答できない」と話している。
同会は9月、この夫婦に子どもを優先して紹介する費用として現金を受け取ったことなどが社会福祉法で定める「不当な行為」にあたるとして、県から事業停止命令を受けた。県警は今月、営利目的であっせんした疑いがあるとして児童福祉法違反の疑いで同会の関係先を家宅捜索した。
「朝日新聞デジタル」より引用
このニュースによって、次のことは驚きとして感じました。
- 利益を目的に養子縁組をあっせんする事業者が存在したこと
- 寄付金を受領しているあっせん事業者が存在すること
- あっせん事業者には、相談員として社会福祉士の配置が望ましいとする厚労省による通知があること
- 社会福祉士にカウンセリングを受けるという認識を持つ人がいるということ
児童福祉法にあるように、養子縁組のあっせんに関して、金品を要求することは禁止されているのは当然のことです。
しかし、あっせん事業者の会員になるための会費や、寄付金は禁止されている訳ではないのです。
寄付の任意性が担保されていればの話ですが・・・・
「お金を払えば優先的に子供を紹介しますよ」
というのが駄目なのは、分かりやすいです。
当然ですよね。
しかし、多額の寄付をしている夫婦に対して優先的に近い形で子供をあっせんしてしまっているケースはないのか?
そしてそれは、違法なのか?
あっせん事業者に勤めている人は、皆人間です。
別に、事業者職員のポケットにお金が入っていないとしても、多額の寄付をしている人の要望をかなえてあげたいと無意識に行動することはあり得ます。
寄付がまったく関係なかったとしても、これは人間がすることですから、必ず、無意識の影響力が働きます。
良くも悪くもです。
そもそも、養子縁組における優先順位ですが、何が正しくて、何が間違っているかなんてのは非常に難しいことです。
例えば、養親を望む男女と、子供のマッチングの基準について、先着順に重きを置くのはおかしいですよね。
早い者勝ちにすれば、ある意味公平な選抜ですが、それではあまりに個別性を無視しています。
すると、養親と子供との相性であったり、養親の子供に対する姿勢や態度を見ることになります。
もちろん、そこには、あっせん事業者の主観が働くことになります。
悪気はなかったとしてもです。
もちろん悪気はほとんどの場合は、ないでしょう。
皆、善意でやっているのが現実だと思います。
最初から、養子縁組あっせんで、利益を上げようという人は、まずいません。
ですが、善意だけで、人間が生きていくことは不可能であることを頭の片隅に置いておくことが正しい選択をすることに役立ちます。
業務に慣れ、特権的地位を得たかのような錯覚をしてしまうと、誤った選択をすることは起こり得ます。
これは、成年後見人を請け負っている後見人が、いつしか被後見人の財産を着服してしまうのと、その構造が似ています。
社会福祉士が養子縁組あっせん事業者でケースワークを担う場合は、相当な倫理観が求められます。
そして、養子縁組に対する価値観も問われます。
価値観というのは、ソーシャルワークにおいて非常にやっかいな存在であると同時に支援の灯台ともなってくれるものです。
例えば、介護相談を担当するソーシャルワーカーを考えてみます。
ソーシャルワーカーも人の子ですから、老親を遠くの故郷に残したまま、日々の仕事に追われて、内心、親の介護に対する心配があるかもしれません。
そのようなメンタルの状態で、他人の介護相談を受けるとしましょう。
相談というのは、上から目線で受けてあげるというものではなく、自身のメンタルに向きあわされる生業です。
この場合、ソーシャルワーカーは、自身が親の介護をしていないという負い目を感じてる状態で、他人の介護について助言をすることになります。
そこには、何等かの価値観が影響してしまう。
これは、養子縁組のケースワークにおいても同様の事象が起きます。
例えば、ソーシャルワーカー自身が不妊で、子供に恵まれず、そのことにネガティブな感情を抱いていたとしたらどうか?
きっと、その価値観がソーシャルワークに影響することは完全には避けられないでしょう。
もちろん、倫理観をもって対応している人が大半です。
子供が欲しいと願うができない夫婦と、不本意に子供ができてしまった女性や経済的な理由から育てられない女性との間にある暗闇
関与するあっせん事業者は、その狭間に立っている存在です。
本来、この養子縁組というのは、非常にデリケートな問題です。
結論を言うと、社会福祉士にカウンセリングの技術は30パーセントくらいの必要性があるといえます。
逆に言うと、70%は不要で、むしろ自身の価値観についての深い考察がその要件といえるでしょう。
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