社会福祉士レポート実例(児童心理学-設題1)
社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ
実際のレポート作成例をここに提示します。
児童心理学でありながら、保育のあり方について述べさせるというこの設題は解釈に幅があり、難しい部類の設題と言えます。
指定教科書には、児童心理のことは書かれていますが、保育のことについては不十分です。
指定教科書は
『児童心理学』無藤隆著 日本放送出版協会
です。
放送大学のテキストです。
この教科書自体は分かりやすく初学者向けの良書です。
ただし保育のことはあまり書かれていないため、参考文献から情報をひっぱってくることになりました。
資料収集のあてが外れると、とかくレポートの方向性が崩れることは多々あるので、そこは大変なところでしたね。
ポイント(学習ガイドより)
現代社会における家族形態の変容や、地域における家庭の孤立等を踏まえ、保育環境の劣悪化が子どもの心理的発達に及ぼす影響を考察した上で、家庭・地域・保育機関における今後の保育のあり方についてまとめること。
科目概要(学習ガイドより)
本科目では、児童の健やかな成長を促すために必要な知識を、教育心理学・発達心理学の視点から身につけることを目的とする。そのため、まず、児童心理学における主要な概念や研究方法を紹介し、さらには運動能力、知性、社会性などの諸機能の発達的変化を概説する。そして、それらの発達に即してどのような教育が必要なのか、また、遊びはどのような意義を持っていくのか考えていく。子どもの発達について、学生の関心を高め、より具体的なイメージが持てるようにする。
設題1
「家庭と地域社会における保育のあり方について述べなさい。」
はじめに
このレポートでは設題に沿って、現代社会における保育環境の変容を踏まえ、保育の概念について提示し、今後の保育のあり方についての結論を述べる。
1.現代社会における家族形態の変容
日本の家族は、1960年代の高度経済成長期以降、急激にその形を変えてきている。
第1の変化は、家族が著しく小さくなったことである。平均世帯人員が減少してきた原因には、第2次、第3次産業の発展により、都市部で働く若い人々や単独世帯が増加したこと、多産多死の時代から少産少死の時代へと移り、子どもの数が減少したこと、結婚後は親と同居しない核家族が増えたことなどがある。日米いずれの国でも工業化の進展とともに、平均世帯人員が減少する傾向があり、最近の欧米先進諸国では3人を割っている。
第2の変化は、農林漁業就業者世帯は減少の一途をたどり、代わって雇用者世帯が大幅に増加したことである。雇用者世帯は、就業の場と家庭が離れている(職住分離)ため、家庭生活のうえで大きな特徴と問題点をもっている。
第1に、雇用者は家庭から離れた場所で1日の大部分を過ごさなければならず、小さくなった家族は、実質的な構成員がさらに少なくなっている。第2に、家庭が生産労働の場所でなくなったために、子どもは仕事について親から教えてもらうことが少なくなっている。第3に、雇用者家族は、転勤や住居の移動などの地理的な移動も多いため、地域社会との結びつきが弱くなり、家族が孤立しやすいなどの問題点も抱えている。
2.保育環境の劣悪化
このような状況のなかで、家庭における保育環境は悪化してきている。
地域社会と結びつきがなく、親も別居、父親は仕事ばかりで、子育てに非協力的となれば、子どもの保育は主に母親一人の肩に重くのしかかってくる。子育てする中で悩みがあっても、相談できずにストレスを抱え込むことになり、結果的に虐待を繰り返したり、パチンコに熱中し、子どもを車に置き去りにするなどの問題行動につながってしまう。これらは、ストレスが原因と考えられる。
また、一方では、物理的な環境の悪化も存在する。ダイオキシンなどの化学物質による環境破壊の影響、食品の安全に対する神話の崩壊、幼児に対する犯罪、不況に伴う共働きの増加や、夜間働いている親の子どもを預ける夜間保育が少ない現状など、現代の保育環境は悪化の一途をたどっている。
保育環境の劣悪化が、子どもの心理的発達に及ぼす影響は大きい。子育てに無関心な父を持った子供は、やがて自分が父親になったときも、同じように子育てをしない父親になる確率が高い。また、幼い頃虐待を受けた子どもは、親になった時、我が子に虐待をするという虐待の連鎖も指摘されるところである。
このように、保育環境の劣悪化は、家庭・地域・保育機関という場所の問題よりも、社会環境と保育に関わる人間に、その原因があると考えられる。つまり保育のなされる場所が、家庭であっても、地域であっても、保育機関でも、以下に示す保育の概念が満たされている限り、子どもに対する深刻な心理的発達の障害を招くことは通常考えにくい。
3.保育の概念とは何か
そこでまず、家庭・地域・保育機関における保育の概念について以下に示す。
(1)子どもにとっての保育
人間は他の動物と比べて極めて未熟な状態で誕生するので、周囲の人々の手厚い保護がなければ生命の維持さえできない。さらに、生物としてのヒトは、人間の社会のなかで育てられ、情緒、言葉、行動のしかたなど人間としての基本的能力を身につけることによって初めて人間となることができる。
(2)大人にとっての保育
乳児の無心の寝顔や、つぶらな瞳は、保育する者の心に、小さいものや弱いものをいつくしみ、守ろうとする無私の感情を呼び起こす。また、言葉では表現できない相手の内面や要求をくみ取り、相手に合わせて対処することは、子どもを育ててみて初めて経験することであり、自分自身を変えることにもなる。さらに、ひとりの子どもへの関わりは、そこに関係する様々な人々との新たなつながりをつくり、人間関係を豊なものにする。
このように保育は、保育する者にも保育される者にも、相互に教育作用をもつ営みといえる。
4.今後の保育のあり方(結論)
以上の概念を以て以下に、家庭と地域・保育機関における保育のあり方について結論を述べる。
(1)家庭における保育のあり方
近代社会では、保育にあたるのは母性機能を備えている母親であるという考え方が主流をなし、これが性別役割分担の大きな根拠となってきた。
男女の平等性や、男性と女性の役割に対する考え方・態度・行動様式は、その社会の文化の規定によるところが大きい。子どもは、まず家庭生活のなかで、最も身近な父親と母親のあり方をモデルとして、自分の人間観を培っていく。労働や保育への男女の関わり方はもとより、父親の、母親に対する何げない一言や態度、親による男児と女児に対する接し方の違いなどが大きな影響を与えていく。もちろん、社会全体のあり方の影響も大きい。我々の人間観というものも、そのようにして育てられてきたはずである。
これからの家庭は、従来の考え方にとらわれることなく、両性の真の平等という立場に立って、男女の新しい関係を築いていかなければならない。そして、男女が共同で保育に参加し、職業生活も充実させるなかで、新しい父親像、母親像を創造していくことである。それは、これからの家庭保育の課題でもある。
(2)地域・保育機関における保育あり方
従来の保育において、家庭内の問題は、特に母親の責任として語られることが多かった。このことが、母親を孤立無援の状態に追い込み、保育への自信を失わせることになった。今後は、家族が協力して保育を行うのはもちろんのこと、それぞれが孤立しがちな現代の家族では、意図的に自らを外に向かって開き、他の家族とのつながりを求めることが必要になってくる。多くの親たちが手をつなぎ、共に子どもを育てようとする、開かれた保育を実践することは、子どもの豊かな成長発達の場を保障することになり、地域の活性化につながる。そして同時に、親たちの努力を支える社会的な保育に関する制度や施策を充実させていくことが重要である。
【参考文献】
- 保育園を考える親の会『はじめての保育園』(株)主婦と生活社 2001年
- 平井信義『児童臨床入門 改訂版』新曜社 1989年
- 丹羽洋子『職安通りの夜間保育園-夢をかなえる保母たち-』(株)ひとなる書房 1991年
■■目標規定文について思うこと■■
当レポートの原文では、冒頭の目標規定文が抜けていたため、後から付け足しています。
当時、大学が出していたレポート文例集では、目標規定文なしで、いきなり書き出している例が散見されたので、それを真似ていました。
ところが、木下先生の本『理科系の作文技術』や『レポートの組み立て方』を読んでからは、考え方が変わり、規定文を入れることにしました。
そんなわけでここでは、目標規定文について述べてみます。
目標規定文は、話の目的地を伝える文
何を目標として、そのレポートを書くのか?
主張しようとするのは何かを熟考して一つの文にまとめて冒頭に書く
(木下是雄『理科系の作文技術』中公新書 2011年)
これが目標規定文です。
話の目的地というのは、結論や主張すべきことです。
これがわからないのに目標規定文を書くことは、原則できません。
「話はどこへ飛ぶかわかりませんが、読み進めていくうちに決まるでしょう」
なんて書かれても困りますよね。
もちろん、結論を出したつもりでも、いざレポートを書いてみたら、倫理の矛盾が見つかることはあります。
その場合は、目標規定文を修正することになります。
最初の見立てが甘いと書き直しの要素が強くなるので、書くべき内容と結論を吟味しておくことが効率的ですね。
目標規定文の例
このレポートでは、設題に沿って、介護保険制度の概要を述べた後、自己負担割合の問題点について取り上げ、利用者にとっての適正な費用負担についての結論を述べる。
こんな感じの文になります。
福祉系大学のレポートでは、理科系の大学のような実験をすることは通常ありません。
もしアンケート調査など、ごく簡単な調査や実験法を用いたのであれば、
「目標規定文でそのことに触れて、これこれしかじかの方法で調査して結論を出した」
と説明しておきます。
目標規定文は会議でも使える
- 分かりやすくするため
- 主張を明確にするため
というのが目標規定文が存在する理由です。
これは、レポートに限らず、業務報告や会議などでも使える方法なのをご存知ですか?
例えば、会議の冒頭で次のような説明をすると何をするのかがわかりやすくなります。
今日の会議で決めることは、2点あります。
- 地域交流行事の日程
- ボランティアの依頼
です。
終了時間厳守でお願いします。
このような冒頭での説明は、最初に話の方向性を示すためになされます。
「この話はどこへつれていかれるのだろう?」
という不安を減らす手法です。
ちなみに、
日常会話においては、こうした手法は無視されることが多く、思いつくままに会話が展開されますよね。
主語が抜けていたり、話の頭が重すぎ(長すぎ)たり、要は何のことを言っているのか不明なまま話が進んでいくといったことが起きます。
まとめ
日本の日常会話においては、それで許されても、
ことレポートにおいては
「何をどのような方法で主張するのか?」
といった情報を最初に述べておくことが求められます。
つまり、それが目標規定文だということになります。
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