社会福祉士レポート実例(社会心理学-設題1)
社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ
実際のレポート作成例をここに提示します。
社会心理学は、認定心理士を取得しようとする学生には必須の科目です。近年は、社会福祉士の養成大学で、社会福祉士と同時に認定心理士資格を取得できる専攻課程が増えています。
設題は、各大学によって異なるかもしれませんが、社会心理学の基礎知識を問うものがほとんどです。本設題も、社会的相互作用というポピュラーな内容を問う設題となっています。
設題1
「社会的相互作用について述べなさい。」
はじめに
社会的相互作用とは、社会的場面において、ある個人が他者に働きかけて影響を与えると同時に、他者もその個人に働きかけて影響を与えるという関係が成立している場合のことをいう。このような場面は、日常生活の中に多く存在している。
例えば、同じ職場にいる男女が頻繁に顔を合わせているうちに、一方が恋愛感情を抱き、相手に対して交際を申し込むという行動をとり、相手がこれを了承するといった一連の相互作用は、誰もが想像しやすい社会的相互作用の一例といえるものである。
社会的相互作用を考えるうえでは、人が自分自身や他者、環境・状況をどのように捉える傾向があるのかということが重要である。とかく人は「自分のことは自分が一番よく知っている」として、自分の行動原因や心理過程を理解していると思いがちであるが、それを社会心理学的な観点から述べると否定的にならざるを得ない。そこで社会心理学の観点から、対人認知と態度という点について述べていく。
1.「対人認知」に関して
人は、初対面の人に会ったとき、その人物に関する直接・間接的に得た情報を手掛かりに印象を形成する。社会心理学では、その時に様々な対人認知における歪みが生じることを指摘している。
例えば、認知者が対象者から得た情報は均等な重みを持たず、複数ある情報の中で特に目を引いた特定の情報が中心特性として作用し、印象が形成されることがある。とりわけ肯定的な情報よりも、否定的な情報が重視される傾向があるといわれている(ネガティビィティ・バイアス)。
また、我々の意識の中には、人物の特徴に関する「典型像」が保有されており、認知者が対象者を認知するときに、その典型像と対象者を照合して「外交的である」「内交的である」などのように印象を形成すること(プロトタイプ理論)もあるとしている。
さらに、ある人物に関する情報が事前に知らされていた場合、その情報に引きずられ、ある種の期待感や先入観が生じ、対人認知が歪められたり(期待効果)、「女性だからきれい好きだろう」「公務員だから融通がきかないだろう」「白人だから知的だろう」というように、特定の性別・職業・人種などにおいて典型的に認められると考えている特徴(ステレオタイプ)を、認知しようとする他の個人にも当てはめようとする傾向もみられるとしている。
このように、我々の対人認知は不正確で個人差が激しいものといえる。つまり、人は認知の過程において、事象をあるがまま取り込んでいるというよりは、自分なりの解釈をもとに事象を意味づけ、取り入れているといえる。そして、このことは社会心理学における「態度(attitude)」にも関わってくる。
対人認知がなされると、それが正しいかどうかは別にして、次には態度が形成される。社会心理学でいう態度とは「ある対象が目の前に現れたときに、その対象に対して形成した評価をすぐに思い出して、特定の行為を成そうとする構え」のことを意味する。
態度は、人や物に対してしばしば用いられる。何故かというと、態度には情報を素早く処理したり、他者の行動を予測するための手助けをする働きが存在するからである。
例えば、Aが、初対面の人Bに会って、次の日に、またBと会ったとする。そのときAがBに対して「やあ、こんにちわ、昨日はどうも」と親しみを込めて挨拶をしたとする。これは、初対面の段階でAがBに対して「Bは外交的で親しみやすい人物である」といった認知的枠組みを形成し、かつBの態度から「BはAに対して悪意は無い」と予測し、その結果として、AはBに対して気軽に声をかけるという態度を形成させたのだと考えることができる。
もしそこで態度を用いることができないとすれば、AはBの行動の予測が即座には困難となり、Bに顔を合わせるたびごとに、Bの性格やコミュニケーション特性などについて、多くの情報処理や検討を、その都度繰り返さなければならなくなってしまう。
また、態度には、時として本心とは裏腹に変容する場合がある。人は自己を取り巻く環境内に矛盾を知覚すると不快を感じ、これを解消し態度を変えようとするというハイダーの「認知的均衡理論」が示すように、確かに我々は、心の不均衡を解消しようとして、態度を変えてしまうことがある。
例えば、嫌煙家⒫、愛煙家⒪、タバコ⒳の三者関係を考えてみる。この場合、通常⒫は⒳に対して-(マイナス)、⒪は⒳に対して+(プラス)の心情をもっている。そして⒫の⒪に対する心情は、-(マイナス)である。ハイダーによると、3つの心情関係の符号の積がプラスの場合は均衡、マイナスでは不均衡とされているから、この場合⒫・⒪・⒳間の符号の積はプラスとなって、⒫の態度は安定する。
ところが何らかの原因によって⒫が⒪との関係を維持しなければならないときに、態度変化の動機づけが生じる。均衡理論によると、⒫は⒪・⒳に対する心情をプラスに変化させるか、⒪の⒳に対する心情が変化するように(禁煙するように)働きかけるようになる。しかし相手の態度変えさせることよりも、自らの態度を変えることの方が容易である場合、⒫は均衡理論にしたがって自らの態度を変えることになる。中高生がタバコの違法性や害を知りつつも、仲間の誘いを断れず、ついには喫煙を始めてしまうのも、この例に該当するといえる。
その他、社会心理学の観点から、社会的相互作用を説明する理論は多く存在する。例えば、人は動機づけが高いときには、情報の中身について熟考するが、そうでないときには認知資源を節約するために、不確実であっても安直な情報処理に基づいて態度形成するとした「ヒューリスティック-システマティック・モデル」や、小集団における討議過程分析のための枠組みとして、コミュニケーションを相称的構造を持つ12のカテゴリーに分類していく、ベールスの「相互作用過程分析」などがある。
3.まとめ
いずれにせよ重要なことは、これら諸理論に共通するキーワードともいえる「人間の不完全さ」に目を向けることである。
結局、人間は、自分も含めて他者を正確に理解することもままならず、日常の膨大な情報処理過程の中で、認知資源を節約するために、態度を使って適応しているのである。まして人は、自らの思考・行為の源泉についても、スキーマ(既有知識)が自動的に作用する関係上、正確に把握していないことが多く、ここにも、場・状況・他者からの影響を受け易く、独立・自律的に振る舞うことのできない人間の姿が浮かび上がってくるのである。
それでは、社会心理学と社会的相互作用の関係はどこにあるかというと、それは様々な要因によって生じる相互作用上の社会問題に対して、社会の成員である我々が、社会心理学的な解明や診断を要求するところに存在するものであるといえよう。
現代社会における相互作用上の社会問題としては、情報化社会の影響と情報機器の発達による相互作用の「間接化」がやはり大きい。情報化社会による「情報の洪水」は、もはや人間の処理能力を超えており、これまで以上に態度の必要性が増してきている。さらに、スマートフォンやパソコンといった情報機器による間接的な相互作用は、新たな対人認知の構造を生み出す結果をもたらしている。これらの問題に対して社会心理学がどういったアプローチをすることができるのかは、今後の研究を待たなくてはならないだろう。
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【参考文献】
- 池上知子、遠藤由美「グラフィック社会心理学」サイエンス社 2001年
- 井上隆二、山下冨美代「図解雑学 社会心理学」ナツメ社 2000年
- 小川一夫(監修)「社会心理学用語辞典」北大路書房 1987年
- 中島恒雄「社会福祉要説」ミネルヴァ書房 2001年
社会福祉士からのコメント
参考文献として使用した図解雑学 社会心理学 図解雑学シリーズ / 井上隆二 は、その名の通り、図を多用したテキストで、社会心理学を知らいな人にでもわかるように説明をしてくれる非常に明瞭な本です。
大学の教科書というと、とかく文字のたくさん書かれているものをイメージすることがありますが、参考文献として使用しても全く問題ありません。
こうした図解の本は、参考文献として権威がないと思われることがありますが、そんなことはありません。
ハイダーの「認知的均衡理論」は図で説明されると非常にわかりやすいものですし、レポートを採点する教員が、図を多用した書籍を参考文献として認めないということは、まずありません。
ただし、孫引きについては、気にする教員は存在するので、さも原典から引用したような文章を書くのは、よくありません。
それから、参考文献に関しては、必ずしもすべてを記入できないということが、しばしば起こります。
例えば、レポートで提案した自分の意見のベースとなっている本が存在していても、具体的にどこを参考にしたかわからない場合があります。
あとは、過去に読んだ本の内容を頭に覚えていて、それをレポートのアイデアに一部活用したいが、それがどの本の、どのページに書いてあったか不明だという場合もあります。
また、レポートの起草やアイデアのみを部分的に参考にした場合にも、すべて参考文献として記入すると、参考文献が増えすぎて、2000~3000字程度のレポートには、適切でない場合があります。
そして、何より、レポートの締め切りと字数制限が、理由として大きいです。
レポートがほぼ仕上がった段になって、字数を削ったり増やしたりすると、より前段階からの書き直しや修正を要することがあります。
これは、レポート書きにおいて、学生を悩ませることの多い現象の一つです。
ちなみに本レポートの場合、まとめの部分の下地のアイデアとして、
影響力の武器 [ ロバート・B.チャルディーニ ]に影響を受けています。
本来ならば、そのことを明記してまとめるのが筋ですが、既に字数がオーバーしそうでしたので無理がありました。
そこで、インターネットが普及した情報化社会の例をとりあげて、その処理の負担をさけるために人々が安易な態度を用いるという、独自のアイデアを盛り込んだ書き方をして、引用ではない形にして意見をまとめて締めくくる形にしました。
これは、パクリではなく自分の意見となります。
もっとも引用文献として「影響力の武器」を記述してもよかったのですが、どの部分を参考にしたのかや、チャルディーニの言う「カチッ・サー反応」について説明をしていると、ますます字数が足りなくなるので取りやめました。
字数制限は、守るべきルールとして強く推奨する大学が多いので、実際には、2000程度でまとめようとすると、もっと文章を削る必要があるかと思います。
社会科学系のレポート、とりわけ社会福祉士の履修におけるレポートでは、当然ですが世界中の文献をレビューしてから書くものではありません。
テキストの丸写しなど、明らかなルール違反を除いては、許容範囲のものといえます。