社会福祉士レポート実例(社会福祉援助技術各論ⅡB-設題1)
社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ
実際のレポート課題作成例をここに提示します。
社会福祉援助技術各論ⅡBは、社会福祉調査を学習する科目です。
新カリキュラムになってからは「社会調査の基礎」という独立した科目として国家試験に出るようになりました。
この科目では、統計的な知識を求められますが、複雑な計算をする訳ではなく、社会調査の基礎的な知識を問う科目となっています。
設題1
「社会福祉調査の性格と類型についてまとめ、統計調査と事例調査の相違について述べなさい。」
社会福祉調査は、社会調査の一応用分野であり、その理論と技法は社会調査に依拠している。社会調査の歴史は古く、イギリスの産業革命期以降にまで遡ることができる。中でも労働者運動を背景にしたC.ブースの「ロンドン調査」や、S.ラウントリーの「ヨーク調査」は、労働者を中心とした市民の貧困原因が、社会的要因にあることを明らかにし、その後のイギリスにおける社会保険制度の成立や、福祉国家への移行といったことに影響を及ぼした点で意義は大きい。このことから社会調査の発展は、社会福祉の化学化へ貢献するものであるといえる。
現在、社会福祉調査は、社会福祉援助技術の1レパートリーとして位置付けられ、社会福祉領域において、ますます重要な役割を担うようになってきている。
そこで本設題では、その社会福祉調査についての考察をしていく。設題に従って、まず社会福祉調査の性格と類型についてまとめた後に、統計調査と事例調査の相違と、自分の意見について述べることにする。
1.社会福祉調査の基本的性格
社会調査を、何のために行うのかという点から分類すると、次の3つを挙げることができる。すなわち、⑴最低限必要な資料収集を目的とした「基礎資料的接近型」の調査、⑵問題に対する答えを得ることを目的とした「問題解決的接近型」の調査、⑶一般理論や一般仮説を得ることを目的とした「理論構成的接近型」の調査である。
社会福祉調査は、社会調査の応用なので、これら3つの指向性を備えるものであるが、特に「問題解決的接近型」の調査を重視するところに社会調査との差異がある。つまり、調査対象を把握・解釈するのみならず、問題に対する解決策を引き出し、社会福祉を、より良いものに向上させる、それが社会福祉調査の基本的性格である。
2.統計調査の類型
⑴現地調査の方法による分類
統計調査の調査方法には、質問紙法がある。これは、調査対象者に対して、調査票を使用し、質問に回答してもらう調査方法のことである。調査対象者自身が、調査票に記入する自記式調査法と、調査対象者の回答を調査員が記入する他記式調査法がある。
自記式調査法には、①調査員が調査票を調査対象者に渡して、一定期間の後に調査員が調査票を回収する「配票調査法」や、②調査対象者に調査票を郵送し、回答記入後に郵送で調査票を回収する「郵送調査法」、③調査対象者に一定の場所に集まってもらい、その場で調査票を配布し、回答を記入してもらう「集合調査法」がある。
他記式調査法には、④調査員が個別に調査対象者を面接し、調査対象者が口頭で答えた内容を調査員が調査票に記入する「個別面接調査法」と、⑤電話により調査対象者に回答をしてもらい、調査員が調査票に回答を記入する「電話調査法」がある。
⑵調査対象範囲による分類
統計調査の対象範囲には、全数調査と標本調査がある。
全数調査とは、全ての調査対象者(母集団)を調査するものである。例えば、国勢調査が有名である。
標本調査は、母集団の中から一部分を抜き出し、それを標本として調査を行い、得られた結果から母集団全体の傾向を推定する調査法である。標本調査法には、①標本を任意に抽出する「有為抽出法」、②標本の抽出法に条件設定を施し、標本が抽出される可能性が等しくなるようにする「無作為抽出法」がある。
3.事例調査の類型
⑴現地調査の方法による分類
事例調査における調査方法には、自由面接法と、観察法がある。
自由面接法とは、質問内容に関して大体の取り決めはするが、細かいことについては調査員の自由裁量が認められる、面接による調査法のことである。
観察法とは、調査員が視角・聴覚を用いて直接に調査対象者を観察し、データを集める方法のことである。観察法には、①調査員が第三者として観察を行う「非参与的観察法」と、②調査員が対象集団の一員となり、内部から集団を観察する「参与的観察法」、③観察法を、あらかじめ規定した上で調査を行う「統制的観察法」がある。
⑵調査対象範囲による分類
事例調査における対象範囲には、典型調査がある。これは、科学的・客観的方法によらず、調査者の判断によって対象範囲を選定するものである。典型的な事例だけに限らず、先進的・後進的事例が選ばれることもあるが、最終的な選定は調査者の判断に委ねられるものである。
4.統計調査と事例調査の相違
統計調査と事例調査の相違を述べるために、それぞれの特徴を次に示す。
統計調査は、多数の調査対象者に対する観察に基づいて、平均・比率などの統計的手法を使用して分析する調査法である。量的な調査法である統計調査は、調査対象の特性における量的把握に適している。統計調査によって得られたデータには客観性があるため、他の調査によって得たデータとの比較ができることなどが長所であるが、一方では調査対象の特殊性や個別性を捨象することになるので、母集団の全体的把握は出来ても、個々の特性を詳しく調査することには向いていないという特徴がある。
これに対し、事例調査は少数の事例について深く調査を行うので、調査対象が置かれている複雑な要因間の構造を明らかにしたり、対象の持つ典型性・個別性を調査するのに適している。しかし事例調査は、調査者の意図によって、調査対象を抽出するため、得られたデータから母集団の傾向を推測することができないという難点がある。
以上、統計調査と事例調査の特徴を述べた上で、それらの相違をまとめると次のようになる。すなわち統計調査は、科学的・客観的な、量的調査であり、その手順は、一定の基準に従って実施される調査である。一方、事例調査は、直感的・主観的な質的調査であり、その場の状況に応じて手順と方法が適宜変化し、実施される調査である。これが統計調査と事例調査の相違である。
5.自分の意見
福祉専門職によって、社会福祉調査が実施されるとき「統計調査か?、事例調査か?」、あるいは「全数調査か?、標本調査か?」という二元論で捉えられることがある。しかし、現実の社会福祉問題を解決するためには、これまで述べた社会福祉調査の諸方法を状況に合わせて、組み合わせ、適切に応用することが求められる。
例えば、ある事象を調査しようとするとき、統計調査によって、全体的傾向を把握した上で、捨象された特殊な個別事例については、事例調査によって、不備を補うといった調査方法が考えられる。
あるいは、調査費用の問題から、全数調査が不可能になったとする。このような場合でも、全数調査には拘らず、標本調査を2回実施することで、調査の精度を高くするといった方法が考えられる。
このように、それぞれの調査法が持つ短所を、別の調査法の長所によって補うという方法が、優れた調査を実施する上で重要なことなのである。
【参考文献】
- 新・社会福祉学習双書編集委員会『新・社会福祉学習双書第13巻 社会福祉援助技術各論Ⅱ』社会福祉法人全国社会福祉協議会 1999年
- 中島恒雄『社会福祉要説』ミネルヴァ書房 2001年
- 野村哲也『現代社会福祉叢書5 社会福祉調査論』新評論 1980年
- 福祉士養成講座編集委員会『社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規 2003年
- 星野貞一郎、児玉幹夫『社会福祉調査』ミネルヴァ書房 1974年
社会福祉士からのコメント
社会福祉調査法には、多くの種類があります。
難しく感じるかもしれませんが、各調査法の名称自体が調査法の意味を表していますので、その意味では分かりやすいです。
ただし、種類が多いので、レポートの中で説明していると、うっかりすると字数オーバーになりがちです。
説明はごく簡単に済ませることが求められます。
なお、レポート中で「捨象」という言葉が使用されていますが、これは日常的にはあまり使わない言葉です。
捨て去るという意味ですが、社会調査のテキストには割と好まれて使用されていたので、あえてレポートでも使用しています。