社会福祉士レポート実例(社会学-設題1)
社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ
実際のレポート作成例をここに提示します。
社会学は、心理学と同様に、国家試験でも実務でも重要な科目となっています。社会学特有の社会の捉え方を学ぶことは、広い視野を持つべきである社会福祉士には必須の学問といえます。
設題1
「社会変動の要因について述べなさい。」
社会変動とは、何らかの内部的・外部的事情により、社会全体の構造や秩序が変化したり、社会を構成する諸要素が部分的に変化する現象のことである。全体的変動・部分的変動のいずれにしても、そこには何らかの要因が存在すると考えられる。本設題では、社会変動の主な要因と考えられる4つの説を述べた上で、社会変動がどのように展開されるのか、さらにその意義、今後の展望について考察する。
Ⅰ社会変動の要因
1.経済史観
経済的要素を社会変動の要因とする考え方である。マルクスによって説かれた主張である「経済史観」を要約するとこうなる。
人間の社会は生活資料の生産を基礎にして成立している。しかし人間は、他の人間と結合して社会的に生産する存在だから、生産力とそれに対応する生産諸関係との総体が土台となる。その上に社会の上部構造として、法律的・政治的関係と、観念・文化の諸形態が形成される。したがって土台における経済的変化が上部構造に変化を及ぼす。つまり社会変動の要因は、土台における生産力の発展と、それに対応する生産関係との矛盾から生まれるものだとする。⑴
マルクスによる経済史観は、現在でも大きな影響力を持っており、重要な理論ではあるが、全ての変動公式にあてはまるものとはいえない。
2.精神・観念史観
人間の観念や知識なとの精神的な側面が、社会変動の要因だとする考えである。サン・シモンは、社会秩序の根底には、人間の精神があり、社会の変動は人間精神の変化を通じてもたらされるのであるとの考えをもっていた。また、コントは、この思想を継ぎ、サン・シモンと同様「人類社会のあらゆる歴史的研究の中枢には人間精神が捉えられなければならない」として、人間の精神発展に対応した社会体制発展の3段階の法則を定式化している。⑵
観念的要因は、社会変動の方向を示し、未来像は与えるが、それ自体では変動をもたらさない。一定の利害状況と、そのもとにある社会層と結びつかなければ力を発揮しない。
3.人口的要因
人口の量と質の変化が社会の変動に影響するという考えである。この説を唱える社会学者には、高田保馬がいる。高田氏は「人口現象が一切の社会的なものを変化させる基本的要因」との考えを持っており、これを経済史観、精神・観念史観と対抗させ「第3史観」として定式化した。⑶
この事実は、ある程度認められるが、社会・文化的条件の変化が、人口の増減をもたらすことを考えると、人口条件が特別な社会変動の要因とは考えにくい。
4.技術的要因
技術が社会変動に及ぼす影響を重要視し、社会変動の主要因だと考える説である。W.F.オグバーンは、社会変動を文化変動とみて、技術革新や発明を社会変動の主要因として重視した。オグバーンはさらに、技術上の発明の結果、物質文化が急速に進み、非物質文化との間に歪みを生じさせるが、やがてこのずれが調整されて文化(社会)全体の変動をもたらすとも述べている。⑷
技術進歩が社会変動の要因に、重要な意義を持つのは確かだが、技術進歩は他のシステムと隔離された状態で行われるものではない。
Ⅱ社会変動の展開
社会変動の主要因を4つ挙げたが、この中の一要員が社会変動をもたらす決定的要因という「一元論」的な結論を出すことはできない。これを前提として、1~4の社会変動要因が、社会変動にどう関わっていくのかを、ある「携帯電話」にまつわる話を例として挙げ、社会変動の展開を述べたい。
企業は利益を得るために(経済史観)、携帯電話(以下携帯)を開発した。企業が携帯を開発するには、技術が必要であった(技術的要因)。一方、携帯の使用者は遠隔地の友人・家族とコミュニケーションが可能になった(精神・観念史観)。大都市では、携帯の利用者が年々増加している(人口的要因)。
このようにして、社会変動がなされる。ここで気付くのは「携帯」に関する短文の中に、1~4の社会変動の要因の総べてが関わっているということである。この事実を説明する例として、さらに次のやり取りを例として挙げる。
ある人(A)が、社会変動の総べては、要因xによってもたらされていると断言したとする。ここで、ある批判者(B)が、yという要因によっても社会変動が起きていると反論する。するとA氏は「要因yも、要員xに含有されている」との主張を展開する。
仮にA氏のいう要因xが経済的要因で、B氏のいう要因yが観念的要因だとした場合、経済的要因の中に観念的要因が含まれるという理論は容易に成り立つことになる。あるいは技術的要因が経済的要因に含まれるという考え方もできる。
上記2つの例からいえることは、社会変動は「一元論」ではないということである。
Ⅲ結論
結局、社会変動とは、そもそも多元的である社会システムの中にあって、既存の構造的な枠組みや軌道にそって、社会の成員や集団の欲求の充足を図るためのシステムと考えるのが妥当である。
「解体変動」により、古い体制を壊し、同時に「形成変動」により、新しい体制を作る。このプロセスによりバランスをとり、社会システムの安定を維持する。ここに社会変動の意義がある。
以上、社会変動をもたらす諸要因について、事実・意見と意義を述べたので、以下を以て結論とする。
①社会変動における決定要因の考察は、社会変動の解明につながらない。
②社会変動は「一元論」ではなく「多元的」である。
③多元的な諸要因が、さらに複合的に相互作用し合いながら社会変動をもたらしている。
社会は、今後も絶え間なく変動を繰り返していくだろう。現在、社会学は社会変動の総べてを解明してはいない。それでも社会変動の動態を現実に即した形で具体的に分析していくことが、社会学の課題であり、展望でもある。
【後注】
⑴ 樺・阿閉、279~280頁参考
⑵ 佐藤、12~17頁参考
⑶ 樺・阿閉、280~281頁参考
⑷ 福祉士養成講座編集委員会、130頁参考
【文献表】
・樺 俊雄・阿閉吉男「社会学概論」勁草書房 1977年
・佐藤 慶幸「現代社会学講義」有斐閣ブックス 1999年
・福祉士養成講座編集委員会「社会学」中央法規 2002年
社会福祉士からのコメント
社会変動の要因という壮大なテーマを、僅か2000~3000文字程度で完璧に論ずるのは正直無理があります。
本レポートでは、参考文献の影響もあって難解な表現をしていますが、述べていることは実にシンプルです。
「社会変動は複雑な要因によって影響をうけている」ということです。