社会福祉士レポート実例(心理学基礎実験-設題1)

檻の中の猿

社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ

実際のレポート作成例をここに提示します。
 この科目は、社会福祉士と同時に、認定心理士のコースをとっている学生ならば必修の科目となっております。
心理学の実験法を学ぶ専門的科目で、難易度の高い科目の一つです。

設題1

「心理学実験法についてまとめ、自分の問題意識に沿った実験のテーマや方法について考察しなさい」

 実験心理学における研究は「人及び動物の行動」をその対象としている。そこで問題とされるのは、行動の単なる現象面ではなく「行動の機制」である。例えば「笑う」という行動について、筋や腺の反応、または脳波や皮膚電気反射をいかに詳細に研究しても、それが心理学的な研究だとはいえない。そこには「行動のなぜ」を明らかにすることが求められるのである。
 そこで1つの問いを提起したい。それは「アタッチメントの実験は人間を被験者とした方が、より正確なデータが得られるのではないか?」ということである。
 本設題では、最初に心理学実験法についてまとめる。そして、設題解答者の問題意識に沿って「アタッチメント」を取り上げ「人格の発達の障害」という角度から、人間を被験者とした実験法には、どのようなものがあるのかを考察する。

1.実験心理学の特徴
 実験心理学の特徴は、行動の単なる現象分析に留まらず、条件刺激と行動との関係を分析するところにある。つまり現象分析それ自体は、実験心理学として意味を持たず、刺激との関係性において行動が分析される時に実験心理学の意図する「行動の法則」が見出されるのである。このように現象を規定する条件と、条件と現象との関数関係を明らかにするための方法が、即ち「実験」である。
 実験とは、現象に意図的統制を加え、人為的に設定した条件のもとで観察すること(福祉士養成講座編集委員会、2001)である。これにより初めて、条件刺激と行動との因果関係、機能的関係を明らかにし「なぜ」の問題に科学的解明を与えることができるのである。
 その理由は、以下の実験上の利点により集約される。それは、⑴観察準備が整った段階で、事象を生起させるので、十分な観察が可能であること、⑵同一条件によって繰り返し実験したり、他の人が実験をすることにより、より科学的な検証をすることができることの2点である。
 本来、科学的知識というのは、経験的事実であっても、それが特定の人にしか経験できないような事実は、科学的知識を構成しない。それは、他の人が同一の手続きを踏むことにより、同様の結果が繰り返され、検証される事実のみが科学的知識といえるのである。

2.実験の仮説
 ここで1つの仮説を提示し、実験の仮説設定から結果の分析までを展開する。
 それは「幼児期のアタッチメントの欠如は、人格の発達に障害をもたらす」というものである。この仮説を検証するには、実際に幼児を養育者から引き離し、長期的に実験をしていくことが最も説得力のあるデータをもたらすと考えられるが、人道的にそのような実験はできない。
 そこで、代替案として考えられるのが、動物を使った実験である。動物実験が許されるか否かは別問題として、次に動物を使った実験にはどのようなものが考えられるのかを例示する。

3.動物実験の例
⑴生後間もない子猿6匹を、AグループとBグループに分ける。両グループとも大きな檻の中で飼育することとし、餌は機械で自動的に与えられるものとする。そしてAグループには子猿が1匹ずつ個別に檻の中で飼育され、Bグループの子猿は、母猿・父猿とともに、親子単位で計3組を檻の中で飼育する。この状態で、両グループの猿を半年間飼育する。
⑵前段階の実験の後、Aグループの子猿の檻には、Bグループと同様に母猿・父猿がそれぞれ入れられる。一方、Bグループは変更なく飼育を継続する。この状態で、さらに両グループを半年間飼育し、両グループ間における違いと、檻ごとに分けられた子猿の被験者間変数を検証する。

4.実験の分析
 Aグループは、親猿とのアタッチメントの剥奪という操作がなされているので、Aグループは実験群である。一方、Bグループは母・父猿とともに飼育され、アタッチメントが可能であるため、統制群である。
 なお、この実験では、檻の中で猿を飼育するとなっているが、あくまで他の猿と隔離されていれば良い実験なので、檻の広さや、軟禁から生ずるスレトスは考慮されないものとする。さらにA・Bグループの違いは、親猿が居るか否かの違いのみで、その他の要因(餌の種類・環境)は同程度のものとする。したがってこの実験は、1要因実験であるといえる。また、実験⑵でAグループの檻に父・母猿を入れない、または入れるという操作が独立変数で、その後のAグループの子猿の行動が従属変数である。
 以上の実験から、Aグループの子猿は、アタッチメントの欠落から、実験⑵において親猿と対面した時、過剰な拒否反応を示すと考えられる。また、親猿以外の猿との接触を通した学習行動が不足していることや、餌を獲得するための行動が学習されないということから、もはや通常の野生猿とは、かけ離れた猿になっている可能性がある。

5.問題意識
 実は、このアタッチメントに関する問題は、解答者自身が以前から自分の問題として意識していたものである。人間も動物の一種と考えるならば、この猿の実験によって、人間においてもアタッチメントの不足と人格形成の関係性が疑われる訳だが、即それを人間に当てはめて考えることには、疑問が生ずる。そこで何とか人間を被験者として実験できないかと考えた。
 よく、養護施設で育った子供はホスピタリズムになりやすく、人間的な情感に乏しい性格になるという説があるが、では何故、養護施設で育った子供達の全員が、発達障害にならないのだろうか。そこで、ホスピタリズムは、何故起きるのかという問題について、心理学実験法を用いてどのような研究が可能かを考察してみる。

6.考察
 人間を被験者とした実験には、以下のようなものが考えられる。
 まず養護施設で育った成人の男女を適宜集め、自らが育った養護施設についての、長所・短所を詳しく書いてもらう。さらにその男女の中からホスピタリズムを自覚している男女を選別し、養護施設のどこに原因があり、ホスピタリズムとなったのかの問題点を具体的に書き出してもらう。
 このようにして集められたデータを施設側に提示し、日々の業務の中で、施設の子供達がホスピタリズムにならないように改善を図ってもらう。このようにして、数ヶ月後、被験者である施設の子供達の発達状況を定期的に確認する。
 以上の方法ならば、人道的な問題がクリアされ、かつ人間を被験者として起用することができる。つまり、子供から意図的に母性を剥奪する実験はできなくとも、養護施設の子供達の生活を改善させるために実験をすることは、アタッチメントやホスピタリズムの研究として、望ましい実験であるといえる。

【参考文献】

  • 福祉士養成講座編集委員会 2001年『心理学』中央法規 9頁
  • 大山正・中島義明 共編 2001年『実験心理学への招待-実験によりこころを科学する-』サイエンス社

社会福祉士からのコメント

実験心理学は、心理学の科目の中でも、強力というか、ひときわ存在感を放っている科目です。


設題をみてもらうとわかると思いますが、かなり高度な解答を要求しています。


レポートというより、ちょっとした論文を書くくらいの難しさです。


まず、問題意識に沿った実験のテーマという文言から、問題意識の明確化と実験テーマ選びという卒論級のことが要求されています。


さらに、その前段階では、心理学実験法についてまとめなさいという、おまけつきです。


これをわずか3000文字程度で書けというのですから驚きです。


このレポートを書くときには、随分悩んだのを思い出します。


で、結局出した結論はというと

猿の実験では、正確なことは分からないから、養護施設の子供を調査すればいい

という、何とも突っ込みどころ満載の結論になってしまいました。

今になって読み返すと、もうちょっといいアイデアはなかったのかなと反省です。

動物実験しかできないなら、それはそれで、そこから答えを導き出すということでもいいのかな・・・・なんて今では思います。

そもそも実験っていうのは、不自然で人為的なんですよね。

過去に行われた、研究者の心理実験の数々を読んでいくと、結構、きつい実験をしているのが興味をそそります。

これは、マクギル大学で行われた、大学生を被験者とする感覚遮断実験の図です。

感覚遮断実験

このイラストだけをみると結構ひきますよね。

バイト代を払った大学生だからって、こんな状態で長時間放置するなんて、ちょっとひどい気もします。

今ではこんな実験はなかなかできないと思うんですよね。

もちろん、この実験の手順をよく読んでみると、できるだけ被験者に苦痛がかからないような配慮はしているようです。
ですが、昔のことですし、実験の映像が残っている訳でもありません。

心理学は、占いのように捉えている人がいますが、本来は理系に近い学問です。

違いは、対象が人間や動物であるということです。

こうした歯ごたえのある専門性は、大学生の知的好奇心を十分にそそるものではありますが、実験には常に倫理性というものがまとわりついてきます。

人間はもちろん、動物だからってどんな実験をしてもいいわけではありませんからね。

ましてや一学生が、実験もできない環境の中で、実験のレポートを書く訳ですから、やはりこの科目は難易度が高いなあと思いました。

特に、通信制の大学の場合は、主に教科書から情報を得てレポートを書きだすのが普通ですから、なおのことといえます。

こうした状況を踏まえ、レポートを提出する前にスクーリングに出席している学生は非常に多い状況でした。

大学もそのことは承知しているようで、実際、心理学基礎実験のスクーリングでは、できるかぎり、体験型の授業になるような工夫がなされていました。

認定心理士のカリキュラム上、実習的要素を入れないといけなかったということもあったとは思います。

どんな授業だったかという一例を示しますと、

ミュラー・リヤー

こうした図は、あなたもどこかでご覧になったことがあるかもしれません。
ミュラー・リヤーの錯視です。
同じ線であるにも変わらず、片方が長く(短く)見えてしまう図です。

若い女性・老婆

これは、同じ絵を見ても、ある人は「若い女性だ」といい、別の人は「年老いた女性だ」と認識してしまう図の例です。
意味が分からない方は、しばらくこの図をじっとみていると分かるかもしれません。見方を変えると、若くも老婆にも見える図です。

こうした知覚に関する素材は、体験してみると、実に面白いです。

あとは、こんな感じの反転眼鏡をかけるという体験もしました。

上下反転眼鏡着用

これは、中に鏡が取り付けてあって、装着すると映像が反転する仕組みになっている眼鏡です。

ちなみに過去には、研究者によって、この眼鏡をかけて4日間も被験者に過ごさせるという実験が行われたとのことですが、これもきつい実験の例といえます。

スクーリングではこんな感じで、実験心理学を体験しました。非常に有意義でした。
認定心理士のコースを取ろうという人は、そもそも心理学好きだと思いますので、きっと楽しめると思います。

最後に、

このレポートを書く場合のコツについてお伝えします。


それは、


実験心理学に特有の専門用語の意味を押さえることです

  • 実験群や統制群
  • 独立変数と従属変数・剰余変数
  • 1要因実験と多要因実験
  • 被験者内変数と被験者間変数

これら専門用語の各意味を押さえることで、実験のアイデアであったり、自分の問題意識といったものが、設題からぶれることなく思い浮かべることができます。


その時注意することは、


実験はしなくてもいい


ということです。


というか、一学生が心理実験をしようというのは無理な話です。


家族や知り合いに頼んで、ミニ実験のようなことをする方が、もしかしたらいるかも知れませんが、多くは上手くいかないでしょう。


それよりも、教科書を読んで、よく考えが練られた実験案を考え出し、徹底して考察することが大切です。


それには、指定された教科書を幾度も熟読することが効果的です。


教科書を読んでも意味がよくわからなかった部分については、他の辞書や文献で調べるのが良いでしょう。


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