社会福祉士レポート実例(生涯発達心理学-設題1)

乳幼児と母

社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ

実際のレポート作成例をここに提示します。
 生涯発達心理学は、心理学系の科目の中では、専門的な科目に分類されます。社会福祉学部には、開講されてはいても選択科目のことが多いかもしれません。なお大学に「認定心理士」の過程があり、そのコースを履修している学生にとっては必修の科目です。

設題1

「乳幼児期から老年期に至る発達の特徴について述べなさい。」


 エリクソンの理論は、各段階における葛藤の適切な解決が、それ以前、または以後の発達を促進させるか、させないかを決める転換点であると強調する。課題の解決法や、両極性という線状に置かれた葛藤のバランスは、社会や文化に影響を受けるとしながらも、葛藤の解決に成功すれば心理社会的な力や徳が確立されるとし、失敗すれば、その段階で達成しなければならない心理社会的な力を形成するための機会を失い、以後の葛藤の解決にも支障をきたすとしている。以下、エリクソンの発達段階説を中心として、乳幼児期から老年期に至る発達の特徴について述べていく。

1.各発達段階の特徴
⑴乳児期
 新生児期から乳児期は、それまで母体の中で保護されていた生命体が外界との適応を始める時期である。人間は他の哺乳類と比べて未熟な状態で生まれるため、授乳・排泄・入浴など、養育者の強い保護や介助を必要とする。脳・身体・人格の形成にとって、発達が著しい時期である。そしてこの時期最も重要なことは、養育者と乳児との触れ合い(育児・コミュニケーションなど)の中で、乳児が対人関係の原型を形作るということである。
 これについてエリクソンは、乳児期における早期の社会的経験は、乳児期のみならず、その後の発達段階に重大な影響を及ぼすとした上で、乳児は、養育者とのコミュニケーションを通して、信頼か不信かという葛藤に直面し、その課題を克服するところに、基本的信頼が発達すると述べている。もし基本的信頼の獲得に失敗した場合は不信が生じ、乳児のパーソナリティに、他者を疑う、引っ込み思案になるなどの影響が出てくることになる。
⑵幼児期
 幼児期は、言語能力の発達が著しい時期である。4歳頃までには日常的な話し言葉を身に付けるまでになる。この時期、乳児は実際には、だめでなくとも「だめ」という言葉を使うが、これは「だめ」という言葉の衝撃を試したり、自分の体をコントロールする意味を把握しようとする行為と考えられる。養育者の中には乳児の言動を「悪」と捉え、その矯正のために幼児に恥をかかせる方法をとる場合があるという。
 しかしエリクソンは、乳児期(前期)の発達課題を自律であるとして戒めている。自律は自己統制の感情であり、恥や疑惑と対立する。恥よりも自律が優勢になると意志力が成長し、逆に疑いや恥が優勢になると、時間・金銭・愛情の問題に過剰に支配された脅迫的な成人になるとしている。
 一方、幼児期の後期には、フロイトが男根期と称しているように、性的エネルギーが肛門から性器へ集中し、乳児が自らの性器を弄るといった行為がみられる。エリクソンがこの時期の発達的危機として、自発性と罪悪感の葛藤を挙げたのが理解できよう。エリクソンは、自発性が優勢となると、方向づけや目的感覚が発達し、罪悪感が優勢となると、自分が悪いと確信するようになり、過度に禁欲的となったり、独善的道徳主義を発展させたり、後ろ向きな考え方になったりするとしている。
⑶児童期
 児童期は、小学校という公式的・競争的な環境に身を置くことによって、それまでの親を中心とした対人関係から、言語・社会性・情緒などの面で、複数の他人からも影響を受けるようになる。児童の社会的役割は増加し、急激に発達する時期であるといえる。
 エリクソンは、この時期の危機として、勤勉と劣等感の葛藤を挙げている。学校という競争的な環境の中では、勤勉であることが求められ、児童は他者との比較を経験する。勤勉な者には報酬(成績で100点を取り、親に褒美をもらうなど)が与えられ、そうでない者には劣等感が形成される。つまり勤勉が優勢になると適格性の感覚が発達し、不適格と感ずると、劣等感を募らせ、自分の技能は学校という新世界の要件についていけないなどと思ってしまうとしている。
⑷青年期
 青年期は、児童期に潜めていた衝動が、幼児期とは違った形で再来する。同時に身長・体重・基礎代謝の増加、内分泌系の著しい変化がみられる。性的な衝動の高まりと、身体の急変が同時に進行する時期である。しかし最も重要な発達の特徴は、自我同一性(アイデンティティ)を確立するということである。
 エリクソンは、この時期の葛藤を、自我同一性と自我同一性の混乱との対立であるとしている。自我同一性が確立されると忠誠が発達し、職業的アイデンティティや理想がもてない場合、自我同一性の混乱が生じ、自分が男か女か、自分は何者で、何になろうとしているのかなどが分からなくなってしまうというのである。現代社会では、社会的な背景から青年期を延長して捉える傾向があり、エリクソンの言う以上に、自我同一性を確立するのが難しくなってきている。
⑸成人期・中年期
 成人期は自我同一性を獲得した青年が、人生の伴侶や仕事を選び、大人として生きていく時期である。エリクソンは、この時期の発達課題を他者との完全な親密な関係を確立することとした。親密性とは、自我同一性を失う恐れなく、自分と他人の自我同一性を融合する能力のことを意味する。親密性と孤独の葛藤から「愛」が発達するのであり、親密性が欠けていた場合、結婚・就職・親友を得ることは困難となり、結果的に孤立することが多くなる。
 中年期には、焦点が親密性から次世代への関心に移行し、葛藤は、生殖性と停滞の間で生じるようになるとした。生殖性とは、性的生殖よりも広い概念であり、心理社会的に次世代を生み出すこと(弟子・後継者・部下を育てるなど)をも意味している。
⑹老年期
 老年期は、これまでの発達過程いかんによって、心身ともに個人差の大きい時期である。これまでの人生を振り返り、満足感、悔み、喪失感などを経験する時期である。エリクソンは、この時期を自我発達の完結期であり、自我の統合と絶望の葛藤を解決しなければならない時期であるとした。その課題は、これまでの人生に意味があることを、総合的に検証・評価して証明することにより達成されるとした。近年の平均寿命の高まりから、老年期は、特に女性にとっては長期の発達段階となっている。

2.まとめ
 エリクソンの理論は常識的にも理解しやすいものである。なぜなら、我々の社会には乳児期に虐待を受けた児童が成人してからも、対人関係に問題を抱えている事実を、日々のニュースなどで多く目の当たりにするからである。しかし同時に発達の過程は順風満帆であるとは限らず、社会には、各発達段階において葛藤を解決していなくとも、その後の努力によって発達を促進してきた人が多く存在する(例えば、児童期に劣等感を抱いたからこそ、成人してから勉学に励み成功したなど)ことを忘れてはならない。
 また、これまで発達というと、青年期までのことが多く論じられていた傾向があるが、本来、発達は成人期以降から老年期においても続くものであるとする見方もある(短期記憶は衰えても、知識の活用など、経験を要する分野では発達の可能性はある)。
 したがって発達とは、エリクソンのいうように一般的な指標としての段階や順序を持つものではあるが、それは決定的なものではなく、誕生から死に至るまで「質と量」を変えながら、増加・継続していくものであるというのが、その特徴であるといえよう。

【参考文献】

  • 中島恒雄「保育児童福祉要説」中央法規出版 2004年
  • 平山諭・鈴木隆男「発達心理学の基礎Ⅰライフサイクル」ミネルヴァ書房 2003年
  • 平山諭・鈴木隆男「発達心理学の基礎Ⅱ機能の発達」ミネルヴァ書房 2003年
  • 平山尚・武田丈「人間行動と社会環境」ミネルヴァ書房 2001年

社会福祉士からのコメント
 参考にした文献は「人間行動と社会環境」を除き、当該科目の指定された教科書と参考文献です。
 多方面の文献を部分読みして、議論する書き方ではなく、教科書の設題該当部分をまとめるという書き方になっています。
 なお、400字詰め原稿用紙8枚分の文章量になっているので、各文が、やや冗長になっています。2000字程度でまとめるのであれば、各文体をもっと完結な表現にすることで字詰めをすることができるでしょう。
 まとめの部分は、設題で求められているわけではないので削除しても問題はありません。1.、2.といった項目をつけずに、発達の特徴について述べるだけで終わってもレポートとしての体をなしています。
ですが、結論的な項目として「まとめ」を書いておくと、よりレポートらしさが出ます。


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