社会福祉士レポート実例(地域福祉論-設題1)
社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ
実際のレポート作成例をここに提示します。
地域福祉論は、社会福祉士にとって、必須の科目です。社会福祉士国家試験科目である「地域福祉の理論と方法」に該当する科目です。
単に、レポート作成のためだけでなく、就業先として社会福祉協議会を希望している方は、これを機会に地域福祉の知識を得ておくことは、非常に有益だと思います。
ポイント(学習ガイドより)
地域福祉がどのような概念に基づいて展開されてきたのか、その歴史的展開を踏まえた上で地域福祉の機能的アプローチ、構造的アプローチについてまとめること。
科目概要(学習ガイドより)
我が国では従来の社会福祉制度による施策中心の施設福祉のあり方が見直され、生活の場を拠点とした在宅福祉の重要性が強調されてきた。そこで、地域福祉の今日的展開を踏まえて、地域福祉の推進の主体と方法、現状について理解を深めること。そして、地域福祉推進の考え方や方法、推進主体や公私の役割分担、地域福祉サービス供給主体とマンパワー、関連機関等との連携、地域福祉の計画の策定、財源、地域にける福祉の実践などについて学習する。
設題1
「地域福祉の概念規定における機能的アプローチと構造的アプローチについて述べなさい。」
地域福祉は、研究者の著作が多数であるにも関わらず、未だ概念規定の定説は明確ではない。しかし、地域社会における福祉事業や福祉活動を、1つの社会現象として捉えるならば、どちらも「活動・理念・目的・目標・方法」などの面においては、社会福祉と同様の概念を持っているといえる。ここで地域福祉の概念規定の一例を引用する。
地域福祉とは、住民が地域社会において自立した生活を営むことを可能にするために必要な福祉と保健・医療等のサービス整備とサービスの総合化、福祉の増進・予防活動、福祉環境の整備、住民参加の福祉活動の支援を行い、これらの活動をとおして福祉コミュニティの形成をめざす福祉活動の相対をいう。⑴
ここで気付くことは、社会福祉全体の目標や理念と、ほぼ同様ということである。「地域福祉の概念や理論は、欧米の社会福祉理論にはない、我が国固有のものである」といわれるように、そもそも社会福祉と地域福祉を別々にして考えるのは不自然だといえる。
しかし、地域福祉という社会現象を客観的に把握しようとするなら、その現象を成立させる条件や要件に焦点を合わせ、説明する必要がある。
本設題では、日本の地域福祉の歴史的展開を踏まえた上で、地域福祉の概念を、機能・構造という2つのアプローチから述べていくことにする。
I 地域福祉の歴史的展開
明治時代、政府は西欧の近代的制度を様々な分野にわたり導入していた。社会福祉の分野も一部影響を受けていたが、当時の日本における「地域」と、西欧的な「社会」を同一視することはできない。歴史的に日本は、国家が絶対的であり、これに対立する市民社会を経験することがなかった。最小単位としての家族と、最大単位としての国家があり、社会はいわば家族結合が拡大したもの、あるいは村落共同体が拡大したものという原理に基づき、地域福祉が捉えられていた。
その原理が反映された「恤救規則」は、共同体の一員として、互いに扶けあうことが制度として要求されていた。「地方」は「中央」の出先機関であり、「地域」は「地方」の別名でしかなかったが、それでも当時は国家の扶助は保たれ、機能も維持されていた。
単なる相互扶助という概念から、戦後の歴史的変遷を経て、1950年代には社会福祉協議会が地域福祉の活動を展開するようになった。
まだ、地域福祉という概念すらなかったが、その組織過程・発展過程から、現在の地域福祉活動にたどり着く基礎を作り出した点で社会福祉協議会の果たした役割は多大である。
Ⅱ 機能的アプローチの概念
これは、現代の社会福祉理論における機能的アプローチに基づいた概念である。地域福祉を、社会的ニーズを充足する社会的サービスや社会資源を供給するシステムとして捉える。そして、地域福祉が需要と供給から成立するのであれば、さらに2種類に分類できる。
1.主体論的アプローチ
保健・福祉のサービスを受ける、住民・要援護者側から、地域福祉の体系を機能的に展開しようとするもので、地域社会で発生する生活問題は、可能な限りその地域社会で解決するところに特徴があるとし、地域福祉を問題解決機能体系とみなす。住民の主体的で組織的な問題解決プロセスが重視される。
2.資源論的アプローチ
社会的サービスを供給する側から、サービス・資源の持つ地域的制約などに着目して、供給システムを構成しようとするものである。本来、住宅福祉論の展開から出発したことから、在宅福祉の体系化・理論的根拠づけの過程で、地域福祉論に拡大・発展した。地域福祉の中枢に在宅福祉を捉えた構成であるため、在宅福祉イコール地域福祉という誤解を受けやすい。
3.まとめ
機能的アプローチにおける地域福祉の特徴をいかにまとめる。
①社会的ニーズを充足する供給システムと捉える、②需要供給システムのバランスが崩れたところに出現する、③要援護者層を中心とした国民諸階層の生活問題(要援護者問題等)を対象とする、④公的施策に限定されず、公私の複合的供給体制で構成され、標準的生活の確保を目標とする多元的な組織体の施策、⑤住民参加を強調しつつも、住民運動的性格は脱落する傾向にある、⑥ニーズの拡大・多様化によって、原則的に応能負担を容認する方向にある。
Ⅲ 構造的アプローチの概念
これは、社会福祉理論における制度政策論・運動論の立場から地域福祉を把握しようとするアプローチであり、地域福祉を政策として捉えるところに特徴がある。細分すれば、制度政策論的アプローチと運動論的アプローチに分けることが可能で、以下にその概略を述べる。
1.制度政策論的アプローチ
国家独占資本主義段階の政府が、資本蓄積に伴う大衆の貧困化として現れた生活問題に対する対策として、地域福祉政策を規定するものである。
2.運動論的アプローチ
政策と運動との拮抗関係の中で、政策主体・労働主体・国民主体の「三元構造」として把握することが、真の地域福祉政策をめぐる地域福祉の実態を捉えるという立場のものである。
3.まとめ
構造論的アプローチにおいて、地域福祉の特徴を以下にまとめる。
①国家独占資本主義段階の、政府・自治体が講ずる社会問題対策の一政策として規定、②資本主義社会における、貧困・低所得者層の生活問題に対応した政策、③最低限度の生活保障を原則として、地域の生活水準の向上を支える公的な施策、④施策の内容は、社会運動を媒介にして規定される、⑤公的な政策であり、低所得者層が対象なので、受益者負担の無料化を求める。
Ⅳ 結論
前提として、地域福祉は、社会福祉の地域版ではないことを記した上で、結論として、機能的概念と構造的概念の相互補完関係の必要性を強調する。すなわち、構造は機能がなければ認識できず、機能は構造があってこそ成り立つものである。いわば構造は、枠組み・骨格であり、機能は、効用・作用といえる。
前述のように、地域福祉の概念規定と、社会福祉全体の目標や理念は、ほぼ同様であるなら、地域福祉における対策は、明治時代のそれと同じである訳にはいかない。社会福祉は、急速な高齢化、生活様式の多様化から、変革の時期にある。であるならば、地域福祉もまた同様であるといえる。
【参考文献】
⑴新・社会福祉学習双書編集委員会「新・社会福祉学習双書 第10巻 地域福祉論」社会福祉法人全国社会福祉協議会 1999 5頁
- 福祉士養成講座編集委員会「地域福祉論」中央法規出版 2001
- ≪参考URL≫
厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/(アクセス日:2016/3/20)
社会福祉士からのコメント
地域福祉論は、とかく抽象的な文章になりがちで、分かりにくい科目のひとつです。
現場での体験や知識がある人ならば、地域福祉実践の具体的なサービスや取り組みをあげて説明してもいいでしょう。
ただし、ここでも、多岐にわたる専門用語の解説をする関係で、字数制限にひっかかるという問題があるので、すべてにおいて具体例を出すことは無理が生じるかもしれません。
上記のレポート作成の例は、3000字程度でまとめていますが、2000字程度でまとめようとすると、特に字数オーバーしやすいです。
あくまで、教科書を軸にして設題を満たす文章を書くことを優先してみてください。
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