通信制福祉大学の学生がしたいのは介護ではない

福祉系大手通信制大学の出願者数が、13年連続で2000名を超えているというニュースがありました。
これは、結構な大きい数字です。

こんなにたくさんの人が福祉を学ぼうとしているのですね。

でも、ひとつ疑問がわきました。
「これだけ多くの人が福祉を勉強しているのに、どうして福祉業界は人手不足なのだろう?」
という疑問です。

特に介護業界の人材不足が深刻です。

もちろん、これは大学の話ですから、出願者がいくら増加したとしても、それは福祉を勉強している人が増加しただけで、職業としての福祉となると別の話になります。

特に介護の仕事については、通信制の大学で介護福祉士などの資格を取得することはまずないので、大学で勉強している人の多くは介護職を目指していないのではないでしょうか?

私が思うに、今、大学で福祉を学んでいる人の内訳としては、すでに何らかの職業をもっていて、その上に福祉の知識と資格が欲しいという人が多いのだろうと考えています。

例えば、

  • 弁護士や検事や士業の人
  • 刑務官をしていた人
  • 病棟勤務の看護師
  • 高齢者向けの福祉産業に参入した企業の人

など、既に福祉以外の分野で仕事をもっている人が、知識としての福祉を身に着けるために入学しているケースです。

もちろん、福祉の仕事に就職するために勉強してる学生もいますが、そういう人も目指すは介護職ではありません。
社会福祉士資格取得を念頭に置いた相談援助職であったり、現役のケアマネージャーによる拍付けの資格や学位の取得です。

要するに福祉系大学で学んでいる人は、高齢化社会の中で、いかにして福祉の知識を自分のキャリアに活かすかを考え、学んでいるのです。

例えば、士業であれば、成年後見制度がらみで社会福祉士の資格があれば役立つと考えるでしょうし、
刑務官をしていた人であれば、その職務経験を生かして、定年後の更生保護関係の活動に資格を活かすことができると考えるかも知れません。

また、看護師であれば、加齢により現場の第一線で働くことが難しいと判断したときに、医療相談員という形で社会福祉士の資格を活かせると考えることもあるでしょう。

高齢者向けの福祉産業に参入した企業の人の場合は、福祉全般の知識を学ぶことが、高齢者ビジネスに付加価値をもたらすと考えるかも知れません。

そして、本流の人、すなわち福祉の仕事に就くために福祉系大学に入学している人はどうかというと、福祉の仕事の中でも、より勤務条件の良い「公務員」であったり、事務的なイメージの相談員を好む傾向が強いでしょう。

結局、通信制の大学を卒業して介護の仕事に就こうという人は、少数だということです。

介護の仕事を目指す人は、最初から介護福祉士の資格をとれる学校にいくでしょうし、初任者研修などをとって、さっさと現場に出たほうが早いからです。

しかし現実的に福祉業界で最も不足している人材は、介護職員です。
にもかかわらず人が集まらないのは、福祉業界で活躍しようとする人のニーズの違いがあるからです。

皆、本心では介護現場ではなくて、社会福祉士などの資格をとることや、現在の業務の領域拡大、好条件の就業を望んでいるのではないでしょうか。

介護の仕事はやりがいがあるけれど、体が故障してしまって続けられないという事情もあるでしょう。

それもそのはず、
正直なところ、中年になったら介護は続けたくても体がきついです。

特に、夜勤のある特養などの勤務は身体を痛めつけています。

ですので、
大学で福祉を学んで、資格をとるという学生のニーズは至極まっとうなニーズだと思います。

今後は、多様なキャリアと価値観をもった社会福祉士が量産されるでしょう。
それは、社会福祉士にとって望ましいことです。

私が社会福祉士を取ったころ(10年ほど前)は、資格を取っても介護職をしていることが多い時代でした。
介護経験も相談員経験もなく、資格だけある社会福祉士は、ヘルパー2級相当の介護をするしかないと考えられていた時代です。

でも、今後は社会福祉士が多様化します。

社会福祉士は、福祉現場だけの資格ではなくなってきますよ。

基礎教養としての介護技術は必要ですが、もっと社会福祉士の領域を広げて、もっと多くの経験を積み重ねておくのがいいですね。

障害者施設で、現場介護型の社会福祉士をしている私が言うのもなんですが、これからの社会福祉士はもっと福祉以外のことを知っている必要があると思っています。

すでに、社会福祉の現場で働く社会福祉士も、遅くはないので、日々勉強をして、領域拡大することがお勧めです。


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