社会福祉士が未経験から確実にMSWになる方法
MSW(メディカルソーシャルワーカー)になるためには、社会福祉士の資格が必要とされつつあります。
法律上絶対要件ではありませんが、事実上、必要資格要件となってくることは確実です。
医療相談員、医療福祉相談員、MSWなど名称はさまざまですが(ここではMSWで統一します)、病院などの医療機関で働く社会福祉士は今後も増加していくでしょう。
最近では、がん患者への就労支援(ハローワークと連携)に取り組んでいる病院があったり、がん患者が仕事との両立をするうえでの相談に応じる役割(両立支援)も登場し、社会福祉士の専門性が認知されはじめています。
今回は、未経験者がMSWになるために必要な経験の積み方と、その専門性について整理し、未経験から確実にMSWになる方法を述べたいと思います。
なお、新卒から新規採用されたケースについては、所属機関の研修システムにそって訓練していくことで基本はOKなので、ここでは除外とします。中途採用、欠員補充によるMSWの採用について述べていきます。
MSWの業務
厚生労働省健康局長の通知によると、MSWの業務範囲は、次のとおり、
- 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
- 退院援助
- 社会復帰援助
- 受診・受療援助
- 経済的問題の解決、調整援助
- 地域活動
が示されています。
上記の業務範囲について、社会福祉の専門職の立場から、患者の支援にあたることになります。
具体的な方法については、養成課程で学んできたように、ケースワーク、コミュニティワークを中心とした社会福祉援助技術を用いていくことが基本となります。
あなたが、大学や養成校でのころを思い出して、改めて勉強し、現場にどう活用するか思考しましょう。
ただし活動拠点が病院だという特殊性がありますので、MSWとして新たに得なければならない知識や経験が当然にあります。
MSWとして新たに得なければならない知識
(1)医療機関という場所への理解を深める
勤務する病院の種別(急性期病棟or慢性期病棟)、医療系従事者の年齢構成と雇用形態の分布、運営法人の特色と方針、MSWが配置されたのはいつからか?、こういったことを把握することが基本です。
これらは、医療機関やスタッフがMSWの専門性について理解があるかないかの目安になります。
医療機関の一員として働くうえで、
- そもそも、その医療機関は何を目的に医療を提供しているのか?
- どういう価値観をもった人たちが働いているのか?
- MSWの存在をどうみているのか?
を知ることは重要です。
また、医療機関の財政基盤である医療保険の仕組みや法的根拠についても、知識として非常に重要です。
(2)病気と治療の知識を高める
福祉の専門家として患者の相談を受けるので、医療のことは医療職に任せるものです。
ですが患者の、治療を受けることに対する不安については、MSWも関わる領域です。患者の理解を深めるためには、医療的な知識の向上は必要です。
医療従事者と同等の知識はなくとも、患者と同等以上の医療的知識があることが望まれます。
勉強法としては、家庭の医学に関する本を読んだり、WEBでいえば、「ヤフーヘルスケア」などのサイトを読むのも有効です。
(3)連携する専門職が話す言葉への理解を深める
病院の看護師が話す専門用語はわからないものが多いです。
例えば、たんの吸引のことを「サクション」といったり、精神科のことを「P」という略語で呼んだりします。
MSWは、そうした専門的会話に通じている必要があります。
専門用語の語彙(ごい)を増やしつつ、たとえ、わからない単語があっても、話の文脈から推察できるくらいの傾聴力の向上を目指しましょう。
(4)社会資源に対する深い理解
患者やその家族は、医療相談を受けるにあたって、次のような疑問が生じます。
- 介護保険制度はどうやって使うのか?
- 生活保護の申請とは、そもそも生活保護とは何か?
- 障害者手帳とは?その申請は?
- 医療費が高額になってしまったがどうすればいいのか?
疑問は、質問となって、MSWに向けられます。
その時、ある程度は質問に答えられることが相談員としての力量を示すことになります。
単に知識として知っているだけでは不十分で、日ごろから社会資源に精通するための活動が不可欠です。
具体的には、日本医療社会福祉協会のような専門職団体に加入して研修を受け、連絡ネットワークをつくるというのがあります。情報交換の機会を持つことで、業務に役立ちます。
(5)調整業務について
病院の関係者は、多岐にわたります。
医師、看護師、コメディカルスタッフ、患者、患者の家族、事務長、その他社会資源の関係者などです。
それぞれの人が、それぞれの専門性や立場で動いており、その中で社会福祉士が一人(または少数)存在するわけですから、調整業務は、患者の立場にたつほど難しくなるジレンマを生じさせることがあります。
例えば、担当医の治療方針に不満を持つ患者が苦情を提しても、MSWとしては立場的に医師の治療方針を全否定することは難しく感じるでしょう。
また、別の例では、診療報酬の改正などの外部要因によって退院援助の方針を変えざるをえないといったジレンマもあります。
MSWが調整する患者の福祉的問題は、心理・社会的に難しい課題を抱えていて、そこをどう、手を変え、品を変えながら調整できるかが課題です。
(6)社会福祉士資格の活かし方
社会福祉士は、制度・機関・多職種の間を横断的に動ける専門職です。
病院に勤務したら、この点を意識しながら、資格を活かそうという心構えをなくさないようにしましょう。
職場によっては、MSWの専門性が理解されていないことがありますが、その場合でも、雑用を効率よく片付けつつ、専門性を発揮できる領域をみつけ、自身をレアカード化できるようにしましょう。
経験が浅いうちは難しいかもしれませんが、失敗から学ぶことによって、経験に裏付けられた独自スタイルが確立されるようになってきます。
また、社会福祉士が対象とする専門は福祉ですが、福祉が意味する領域は広いものです。
例えば、交通事故関連の相談では、弁護士への相談につなげることがあります。
法律系の専門職との連携も視野に入れておくことは必要なことです。
患者が抱える法的問題に対して、社会福祉士が直接解決することはないとしても、弁護士への相談へつなげるか、否かの判断くらいはできるようにしたいものです。
MSWになるためにできる独学訓練法
実際に働きながら、MSWとして、新たに得なければならない知識をお伝えしましたが、自宅でできる訓練法は、工夫次第でたくさんあります。
(1)PCスキル
PCスキルが採用の条件のひとつになってい場合があります。
パソコンが苦手な人は、パソコンは購入して、ワード・エクセルくらいは触っておいて損はありません。
高度なプログラミングができる必要などありませんが、医療機関の事務にかかわれるくらいのPCスキルがあると重宝されます。
(2)質問回答訓練
MSWを目指すならば、以下の項目について質問があっても、ある程度概要をこたえられるように、日ごろから知識を深めておくことが必要です。
- 介護保険について(介護保険の申請、サービスの利用方法)
- 障害に伴う問題の援助(福祉制度の活用、身体障害者手帳、障害年金等)について
- 社会保険制度について
- 権利擁護について(地域福祉権利擁護事業、成年後見制度)
- 医療費について(高額療養費制度など)
これらの質問に答える練習をしてみるのは、いい勉強になります。
説明しているところを録音して、あとから聞いてみてください。第三者的に改善すべき点がみつかることがあります。
この訓練はやってみると思いのほか難しく、得るものは多いです。
単に本を読んで、知識としては知っていていることと、それを分からない人に分かりやすく説明するのは、何段階もレベルが上のことだと分かるでしょう。
(3)社会資源を自ら使ってみる法
社会資源について、知識が浅い領域については自身が利用できる範囲で機会があれば利用してみるという手法です。
例えば、自分の親に成年後見制度が必要になる機会があったら、自らが後見人にかってでるとか、高額療養制度の対象になるようなことがあれば(親の医療費を支払ったなど)、税務署に申請してみるといったことです。
それから、個人的に機会があれば、弁護士相談を受けてみると社会資源の勉強になります。
私の場合、身内が交通事故に巻き込まれ、その解決に弁護士相談をしたことがありますが、実際に、弁護士という社会資源を利用してみることで得るものは多いと感じました。弁護士にも、得意・不得意の分野があるとか、相談料や着手金の相場などがわかりますので、利用してみることをお勧めします。
MSWとして採用される社会福祉士の経歴・経験の作り方
新たに覚えなければないないこと、自宅での訓練法をご紹介しましたが、ここからはMSWとして採用されるための実務経験の作り方についてお伝えします。
経験がないと務まらない、採用されにくいといわれる仕事ですが、誰だって最初は未経験だったはずです。
確実にMSWになるためのコツは、まず契約社員など期限付きの雇用から始めることにあります。
採用されやすいところからはじめて、徐々に希望条件のところを目指す戦略となります。
第1ステップ:老人福祉系の相談員として勤務
全くの福祉未経験の場合は、まずは老人系の相談員から修行を始めることをお勧めします。福祉系相談員の前段階として介護の仕事をすることもありです。
福祉系相談員が、MSWよりも簡単という訳ではありませんが、介護保険制度に関連した施設は間口が広く、働く場が豊富にあります。
まずは老人施設の相談員として制度に対する深い理解に努めることと、人を観察すること、ケアマネとの連絡や他施設の特徴などをメインに学んでください。とても有益な学びになります。
第2ステップ:ケースワーカーとして勤務
自治体の生活保護行政を学ぶためにケースワーカーとして勤務することは有益な学習になります。
自治体の臨時的任用職員でも生活保護のケースワーカーは、さがせば募集があるので、そういう場所に勤務して修行しておくとMSWになったときに役に立ちます。
関東でいえばK県は任用職員の募集がわりと多いようです。また、産休代替で短期間募集しているケースもあります。
任用職員の場合、賃金は、低いのですが教育への投資だと思って、1年くらい勤務して、職務経歴と仕事のノウハウを全部持ち帰ってください(個人情報は持ち帰ってはいけませんよ)。そうすることでMSWになったときのスキルや知識として活用できます。
特に生活保護の申請に関する手続き、それから要保護者との面接については得るものが大きいでしょう。福祉や生活保護行政の実態を知ることができます。任用職員の場合、深いところまでは関われないこともありますが、現場に立ち会うことでも得るものはあります。
第3ステップ:MSW(契約・非常勤・補助など)として勤務
社会資源の研究、人間観察の経験が得られたら、次は契約社員やパートの雇用形態のMSWの仕事を探します。
最初から正規雇用を目指すのではなく、給料や福利厚生については考えず、あくまで経験を積むためのステップとして履歴書を送ることにしましょう。
メインの相談員の補助のような募集があれば、それもよいといえます。
パートでもバイトでも期限付きでもよいと割り切って、医療施設で相談員がどのような仕事をしているかを学ぶために、まずは名目だけでも実績を作ることが大切です。
ある国立の有名な病院では、定期的に非常勤のMSWを募集しています。検索してみると、そうした募集をみつけることができます。
注意点としては、一度履歴書を送ったり、面接を受けたりした結果、不採用になったからと言って気にしないことです。
まずは実績作りのための応募なので、あなたがMSWとして利用価値のある病院だと思えれば、次の機会にまた応募すればいいし、ダメと思うなら他の病院に応募してもいいと考えることが大切です。
首尾よく採用されたならば、その医療機関独自のルールやシステム、患者の特徴を研究して、それまでの相談員としての経験をどう活かせるかを思考しましょう。
実務にMSWに就いてみると、雑務、ベッドコントロール、クレーム対応、事務手伝いなど、「これがMSWの仕事なのか?」と思うような経験をすることになるでしょう。
あるいは、険悪な人間関係、うまの合わない上司や同僚に出くわすこともあります。
しかし、すべては次へのステップだと心得て、スキルやノウハウ、忍耐力を身に着けることに集中しましょう。
まとめ ~あなたは確実にMSWになれる~
- 老人系相談員
- ケースワーカー
- 有期雇用のMSW
上記の3ステップのフィールドで、各1年くらいの実務経験を積んだならば、もう次は、あなたが理想とする医療機関を探し求める時期の到来です。
実際に医療機関に勤めることによって、理想と現実がすり合わされ、いくつかの挫折感を味わうことになるでしょう。
所属医療機関の理念に本心から従えないのであれば、区切りのいいところで、別の医療機関に転職することは、良い経験であって悪いことではありません。
何度か転職を繰り返すうちに、あなたは、打たれ強くなっていきますし、自分に合った法人を見つけることは可能です。
MSWの多くは、一人職場(もしくは2名体制)で、毎年のように新卒者を雇用することは少ないのが実際のところです。
多くの場合は、欠員が生じた場合に経験者を中途採用しています。
なので、確実にMSWになるために、まずは、雇用形態や条件にこだわらないで相談員としての実績をつくりつつ、チャンスをうかがうことが必要になるのです。
私は、実務経験の積み方として、契約社員や非常勤という雇用形態をお勧めしました。
その理由は、3~4年前後という期間で、複数の職場を経験するには、通常任期付きの雇用が現実的ということと、できるだけ準備を早く済ませた方がメリットがあると考えたからです。
これについての反論として、
- 最初から正規職員の採用試験を受けるべき
- 非常勤から正規に採用してもらおうなんて甘い
という意見があります。
確かに、法人によっては採用において、実質的に年齢制限があったりしますので、年齢が若いうちにさっさと応募したほうがいいという考えは分かります。
それに、
「住宅ローンや子供の教育費が必要なのに、そんな不安定な雇用など許容できない」
という声も聞こえてきそうです。
最初から正規で好条件の雇用が良いという点は、一面では確かにその通りです。
しかし、条件のよい雇用であれば応募者が殺到するものです。
しかもライバルは実務経験があり、かつ筆記試験の成績も上位の強者です。
こうした競争に勝てて、晴れて就職できたとしても、経験不足がゆえに現場でいたたまれないストレスにさらされ、結果的にすぐやめてしまうのならば、それこそ見通しが甘いというものではないでしょうか?
私はそう思ってしまうのです。
福祉系も含めて、相談員の仕事というのは、頭の良さとかテクニックとかスキルも大事ですが、人生経験や下積みも効いてくる職業です。
老人系の相談員にしたって、最初は老人の介護をしながら、お年寄りの話を聞くことからはじめたほうがスムースに相談員になれますよね。
MSWも同じで、最初は下積みや雑用からやったほうがいいのです。
徐々に徐々に医療相談業務に近づいていく方がストレスが少ないですし、10年やって(MSWとして)やっと一人前といわれる業界ですので、あわててもあまり意味がないのです。
無茶をしないことを意識しながら、MSWとしての経歴・経験をつみあげていきましょう。
ちなみに給料面で待遇のよいMSWの年収の目安は、大体400万円以上からと思って間違いないでしょう。
それ以上は、勤続年数や残業手当などによって決まるのが一般的です。
医療機関に勤務といっても、医療職ではないので、高給取りというほどではないのが現実です。この点は、すでに福祉職の経験がある方はご存知かと思います。
なので、MSWに転職することで、
「現在の生活レベルを落とさなければならない、それが我慢ならない」
というのであれば、あえてMSWは目指さないというもの現実的な選択肢だといえるでしょう。
もちろん、収入だけで相談員としての価値は、はかれないものです。
主婦の方など、人によっては、非常勤で短時間勤務の医療相談員が働きやすくていいという場合も、当然にあるでしょう。
それはそれで結構なことだと思います。価値観の問題ですからね。
非常勤だからダメで、常勤だから偉いなんてことはありません。
忘れてならないことは、最終的にMSWとしてどこにいってもやっていけるスキルと態度と忍耐力をを身につけ、あなたが活躍できる場所を見つけられる行動力を身につけることです。
そうすれば、あなたは確実にMSWになることができる訳です。
しかも長期間、MSWを続けることができるでしょう。
以上、確実にMSWになるための方法を述べましたが、参考にしてみてください。
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