社会福祉士レポートアーカイブ(社会福祉国際比較論-設題2)
過去レポート保存庫
スウェーデンの社会保障について学ぶ設題となっています。高福祉・高負担というイメージの強い国ですが、日本と比較することで、課題もあるということに気づかされます。
学習のポイント(学習ガイドより)
スウェーデンの社会保障の特徴を考えること。さらに、最近の状況についても考察し、日本との比較を行うこと。
科目概要(学習ガイドより)
現在は国際社会と言われている。グローバルな視野を持てるよう、まず国際事情に関する必要な知識を学んでいく。その上で先進国及び発展途上国における社会福祉・社会保障を文献等を通して学んでいく。さらに、各国の社会福祉制度を福祉国家という視野でとらえ比較する。アメリカ合衆国と日本の比較というように、欧米諸国とアジア諸国の福祉制度等を取り上げて比較し、その違いを考察する。
設題2
「スウェーデンの社会保障について、我が国と比較して述べなさい。」
現在におけるスウェーデンの社会保障制度を大別すると、所得保障、医療保障、社会サービスに分類することができる。
1.スウェーデンの社会保障の状況
⑴所得保障
所得保障は、経済面から国民の生活を支える制度であり、主に国が実施する。公的年金、児童手当などがある。
年金の財源である保険料は、年収の18.5%となっており、その内、本人と使用者で負担する16%の部分は、現在の年金受給者に使用され、本人負担である残り2.5%の部分は、自らの老後のために積み立てる仕組みになっている。ただし積立分は、株・債権などに投資することもできる。年金支給年齢は61~70歳の間で選択が可能となっている。
児童手当は、16歳未満の児童がいる家庭に対して手当を支給するものである。3人目から多子加算制度が適用される。負担は国の税である。
⑵医療保障
医療保障には、使用者が保険料を負担するという特徴がある。被用者の保険料負担はない。医療保険は国が運営し、医療の供給は県が担う。病院で治療を受けたときは、一定額の自己負担があるものの、その額は県により異なるが、少額である。治療費には限度額があり、限度を超える場合は保険、税によっ賄われる。医療機関のほとんどは公立で、職員の多くは公務員である。
また、医療保険には傷病手当や両親手当といった制度もある。
⑶社会サービス
社会サービスは、コミューン(市町村)が実施する。コミューン税を財源として、高齢者、児童、障害者に対する、ホームヘルプサービス、補装具の無料貸し出し、保育所の提供など様々なサービスメニューが用意されている。
2.スウェーデンと日本の社会保障の比較
上記を踏まえ、スウェーデンの社会保障と日本の社会保障について比較すると次のようになる。
まず、年金の保険料率について言うならば、スウェーデンの老齢年金の保険料は、使用者10.21%、被用者7%の負担であるのに対して、日本の厚生年金は、総報酬の13.58%の折半となっている。被用者の立場からすれば、スウェーデンと日本では年金保険料負担については大差がないといえる。しかし、医療保障についてスウェーデンでは、使用者が保険料を負担するうえ、患者の自己負担分も少額であるのに対して、日本の医療制度は、保険料が使用者と被用者で折半(国民健康保険除く)、自己負担は一般的に3割負担ということを考えれば、スウェーデンの社会保障の手厚さが際立っている。
また、児童手当の支給期間にしてもスウェーデンが、16歳未満の児童がいる家庭に対して手当を支給するのに対して、日本は義務教育就学前(6歳到達後最初の年度末まで)となっており、ここでもスウェーデンの社会保障水準の高さが目立っている。
ただし、社会サービスについては、スウェーデンが公的な機関によって、主に税を財源としてサービスを提供しているのに対して、日本は社会福祉として、民間の活力、市場原理を導入した福祉サービスを実施している点は、効率という観点からすれば日本の方が優れている側面がある。
3.スウェーデンの社会保障の特徴と課題
ここまで述べたように、スウェーデンにおける社会保障の特徴は、世界でも有数の高福祉が提供されていることと、諸施策の基底に流れる徹底した普遍主義・平等主義に基づいているという点に集約されよう。それは、被用者の医療保険料負担の免除や、手厚い各種手当、また、大学などの授業無料化などに如実に現れている。
しかし、こうしたスウェーデンの社会保障も良いことばかりではない。
例えば、被用者の負担が少ないということは、一方では、それが使用者・自営業者の経済的負担を重くし、経営の意欲を削ぐ要因となっていることや、高福祉を維持するために税率が高くなりがちで国民の所得は低い傾向にあること、完全雇用を目指していることもあって公的機関が肥大化し、民間企業による経済の効率化が阻害されるといった弊害を生み出している。
さらに、高齢化が進行するにつれて社会保障費が増大している問題もある。従来は、女性の就業者数の増加による保険料支払いの増加によって、追加資金が供給されていた面が強かった。しかし、今後も高齢化が進行し、特に後期高齢者が増加し、年金受給者が増え続けるならば、財政事情の悪化は避けられない。この問題に対しては、税金や社会保険料の引き上げ、年金支給額の削減といった制度改革、もしくは、さらなる経済成長の進展といった経済的要素が必要である。
また、公的機関が肥大化することで、非効率的な医療が提供されている実態も問題として指摘されている。実際、スウェーデンの医療機関の多くは公立で、職員も公務員であることや、1990年代の経済危機を背景とする病床数の削減、医師の給与水準の低さなどが関係して、医療サービスを受けるまでの待ち時間が長いなど、非効率的医療の実態が問題となっている。これらを受けて、医療機関の民営化問題が議論され始めてはいるが、労働組合員の中には、公的機関に従事する公務員が多いこともあって、労働組合の主張は、公共サービス中心体制への主張に傾きがちで、改革は思う程には進んでいない。これらの問題の解決が社会保障の課題であるといえる。
4.日本の社会保障の特徴と課題
日本もスウェーデン同様に、高齢化が進んでおり、社会保障の財政問題を抱えている。しかし、社会保障に対する国民負担率、租税負担率はスウェーデンと比べて低く、社会保障費の約8割が、医療・年金に関する給付として支出されているという特徴を有している。このことは、逆に言えば、生活保護など社会福祉関係費の割合が低く、さらに児童手当など、子育て関連の給付が少ないといった特徴を示すものといえる。これらを勘案すると、今後の日本の社会保障においては、医療費の増大を抑え、児童手当など、子育て支援への支出を増やし、少子化に歯止めをかけることが肝要といえる。
また、医療サービスについては、日本の場合、スウェーデンと比較して、患者の待ち時間に関しては短いが、医療提供システムについては、第三者機関を通じての保険給付であることから、患者や医療機関の医療費に対するコスト意識が希薄で、安易な受診や過剰診療を招きやすく、結果的に医療費の増大を招いてしまっているという問題がある。ここに日本の医療制度の課題がある。
5.社会保障の方向性(まとめ)
高福祉・高負担による公的サービスが中心のスウェーデンの社会保障と、社会保険を軸に、医療と年金に偏重した日本の社会保障、どちらが良いとは一概に言い切れない。なぜならば、社会保障の方向性は、その国の経済情勢や国民の合意によって決まるものだからである。スウェーデンの経済情勢は、IT分野において目覚ましい発展が見られ、今のところ良好である。しかし、今後ともスウェーデンは今以上の保険料・税負担の増加をしてまで、高福祉を維持するのか。もし改革をするのであれば、労働組合を中心とする諸国民の合意がどこまで得られるのか。これらはいずれも未知数である。
【参考文献】
- 足立正樹『新版 各国の社会保障』法律文化社 2002年
- 健康保険組合連合会編『社会保障年鑑2004年版』東洋経済新報社 2004年
- 厚生労働省編『海外情勢白書 世界の厚生労働2003』TKC出版 2003年
- 社会保障入門編集委員会編『社会保障入門(平成16年版)』中央法規 2004年
- 福祉士養成講座編集委員会編『社会保障論 第2版』中央法規 2003年
社会福祉士レポート課題にコメント
「社会福祉国際比較論」は、社会福祉士養成カリキュラムには該当しない、東京福祉大学での独自科目です。
2001年に大学に入学した当時、私の大学での専攻名は「国際福祉心理」というものでした。
なので、専門選択科目の中には、国際関係の科目郡、海外の社会福祉を学ぶ科目郡、社会福祉士の科目郡、心理学の科目郡が混在していました。
「国際福祉心理」
専攻名からして、何を専門にしているのかが、いまいちわかりにくいと思いませんか。
福祉と心理は分かるのですが、そこに国際という文字がつくのはよくわかりません。
2000年に開学した新設校だったので、こういうことはよくあるということでしょうか。
当時は、大学設置基準の緩和により、大学新設ラッシュの中で、国際関係学部があちこちにできていました。
もしかしたら、そういうところを意識してつけた専攻名だったのかも知れません。
しかし、それからほどなくして、私の在学中ですが、この専攻名は、名称変更されることとなりました。
どこからか指摘があったのでしょうね。
国際の文字が切り取られる形となりました。
でもカリキュラム変更はありませんでした。
新専攻名は、
福祉心理
なんだかなーって感じです。
後に、東京福祉大学は心理学部を設置することになりまして、私が所属していた社会福祉学部の福祉心理専攻課程は、心理学部に吸収される形となっています。
上記は、大学からの通知です。
とまあ、話がそれましたが、この「社会福祉国際比較論」は、タイトルの通り、海外の福祉制度のことを学ぶ科目となっています。
当時のレポート原稿の原文を編集せずに、そのまま掲載していますので、一部法令や制度の解説は古い内容のままとなっています。
レポートの「書き方」について参考にしていただければと思います。
設題内容は、日本とスウェーデンの社会保障比較というものですので、統計・調査の数字を調べて書いてあるのが特徴です。
数字というのは、比較する上では、非常に説得感を出しやすいツールとなります。
はっきりしますからね。
可能であれば、できるだけ数字をもとに論を展開するとよいでしょう。
また、客観性を醸し出せる効果もありますので、調査が大変な分だけ、高評価を得やすいといえます。
これは、通信添削されて返却されたレポートの画像です。
こういうコメントをもらうと、テンションが上がります。
このレポートを書くとき、参考文献欄に示した各種統計情報が掲載されている「年鑑」などを図書から借りてきて、該当箇所を目次から探したり、付箋をつけたりしてレポートを書いたのを思い出します。
いまはインターネットがあるので、こうした情報はもっと手軽に手に入れられるようになっています。
なので、今の学生さんはうらやましいなあと思います。
もちろん当時は、ウインドウズXP全盛期で、世の中的にはインターネット時代の幕は明けていたのですけれど、我が家にはネットはありませんでした。
あったのは、一世代前のガラケーによるiモードのみ。
どうしてもネットを使おうとする場合は、やはり図書館のパソコンコーナーに行くしかありませんでした。
でも図書館のパソコンコーナーって、混雑していると、一人30分くらいしか触らしてもらえないんですよね。
それに図書館のネットには、閲覧制限はあるわ、プリンターはないわ、編集作業はできないわでレポートの情報収集の道具としては、あまり使い物になりませんでした。
必要な情報をみつけても、それを鉛筆で紙に書き留めるという、超アナログスタイルでしたからね。
なので、情報はリアルの本から引用するというスタイルをとってレポートを書いていたというのが実態です。
やっぱり、専門書や書籍の権威はまだまだ高いのです。
でも、
書籍から統計情報を引用する際、
教科書に載っている統計情報が古い
という問題が生じることがあります。
書籍の場合、ネットに比べて、情報の即時性の面で、タイムラグが生じることがあるからです。
もし教科書のデータが古い場合、その数字をレポートにそのまま書いていいのか?疑問でした。
でも、心配はいりません。
統計情報は、多少古かったとしても、大まかな傾向が分かる程度の誤差であれば問題ありません。
大学のレポートでは、得られた情報をもとに、どのように論じていくかが問われます。
数字が古いからという理由で減点する教員は皆無といっていいでしょう。
もし、そんなことをする教員がいたら、
それこそ
教科書の数字を訂正しといてよ
って話です。
大学側もその程度のことは招致していますので大丈夫
でも、今はネットで情報を得る時代
減点される、されないは別として、最新の数字を把握しておくことは、悪いことではないので、積極的にネットを利用するといいと思います。
ただし、ネットの場合は、引用元として知名度の高いサイトからの引用をすることをお勧めします。
代表的なのが、
- 厚生労働省や法務省などのサイト
- それから東京都などの自治体のサイト
- 大学の公式サイトの論文
などです。
ネットにある情報は信用できない
という人は少なからず存在します。
また、そういう一面があるのは事実です。
なので、信頼されているサイトから引用すれば問題はありません。
例えば、厚生労働省のサイトには、様々な統計情報が載っています。
社会福祉士の生みの親であるサイトですから、信頼性は専門書籍と同等以上です。
しかも情報は常に最新のものとなっています。
レポートでは、積極的に活用するべき、価値あるサイトといえるでしょう。
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