社会福祉士レポートアーカイブ(社会福祉原論-設題2)
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社会福祉原論は、社会福祉の基礎を学習する、学問的色彩の強い科目です。
内容としては、福祉の成り立ちや歴史を学ぶことになります。
当科目の指定教科書(『社会福祉原論』有斐閣 2001年)は、
当時学長をしておられた星野貞一郎先生の著書です。
非常に格式の高い感じの難しい教科書でした。必然的に、当レポートも影響を受けて堅い文章となっています。
本書のAmazonカスタマーレビューに、
「哲学的・思想的だ」
という記述があったのですが、まさにその通りだと思います。
ポイント(学習ガイドより)
今日の社会福祉は、少子・高齢社会を前にさらなる充実が迫られているが、その理念や制度体系は一朝一夕に成立したわけではない。それは、時代や社会体制を反映し、それらの発展とともに展開されてきたのであり、そのことを踏まえてまとめること。
科目概要(学習ガイドより)
社会福祉に関する基礎知識の体系的な習得を目指す。具体的には、現代社会において社会福祉が果たしている役割や機能、福祉専門職としての資格である社会福祉士として活躍するために必要な基礎知識、社会福祉の歴史(社会事業成立以前、社会事業成立期、戦後)、社会福祉の法体系と運営実施体制、社会福祉の財源と費用負担、民間社会福祉の組織と活動、日本の社会福祉の動向と今後の課題などについて学習する。
設題2
「我が国の社会福祉の歴史的展開についてまとめ、今日の課題について述べなさい。」
設題に沿って、我が国の社会福祉の歴史的展開についてまとめ、今日の課題について述べる。
1.慈恵と慈善の時代
ヨーロッパや我が国において、中世封建社会では、身寄りのない幼弱者・老弱者・傷病者・障害者の救済は、共同体社会内部の相互扶助によって行うのがならわしで、共同体的相互扶助の範囲を超える共同体から逸脱した、浮浪者・乞食などは教会や寺院などの慈善活動に依存していた。飢饉や災害などの難民が生まれた時には封建領主が一時的な救済措置をとることもあった。
ところが、中世封建社会から近代市民社会への過渡期では、歴史の激しい流れの中で、多くの乞食や浮浪者が産み出され、すでに発展しつつあった都市部に流入し、法と秩序を脅かすようになった。このため国家は、イギリスの救貧法に典型的にみられるように、町や教区などの地域団体に対して貧民対策を実施する権限と義務を与える救貧法を制定した。我が国では1874(明治7)年に制定された恤救規則がこれと同様の系譜に属し、公的な社会事業施設を軸とする「公的社会事業」と、宗教団体、慈善団体、慈善篤志家、地域社会を基盤とする「民間社会事業」が併存していた。
2.感化救済の時代
市民革命と産業革命を経て、資本主義的な経済組織を基盤とする近代市民社会が確立すると、勤勉・努力・節約・節制などの諸価値と、それに基づく生活習慣や生活様式が定着した。この時期には、産業発展の過程で産み出されてくる、失業者・貧困者・浮浪者・乞食などを、無能力者・性格欠陥者と見なす道徳主義的な貧民観が登場し、その救済を抑制し、拒否するという消極的な貧民政策が展開された。イギリスでは、1834年に「救貧否定の救貧法」とも別称される新救貧法が制定され、労役場による劣等処遇だけが唯一の救済制度であった。
我が国でも1890年代になって産業革命が始まり、下層社会が形成されたが、1900(明治33)年に制定された感化法を除いて、新しい貧民対策は成立していない。政府は、感化事業講習会を通じて欧米の自由主義的、救援抑制的な救済観と伝統的な地域共同体的、親族協救・隣保相扶的な救済観との結合をはかり、1908(明治41)年以後になると公的救済支出は大幅に削減されてしまい、救済責任は民間の慈善事業に転嫁されることになる。
3.社会事業の時代
我が国において、社会事業が成立したのは、第一次世界大戦の大正デモクラシーの時代である。各地で起こった「米騒動」がきっかけとなり、社会問題対策が急速に進展する。1920(大正9)年には内務省外局として社会局が設置され、続いて1921(大正10)年には職業紹介所法、1922(大正11)年には健康保険法、1923(大正12)年には工場労働者最低年齢法が制定された。しかし、救貧制度の系譜についてみると、この時期にも新しい救貧法が制定されることはなく、明治初期以来の恤救規則に依存する状態が続いた。
恤救規則に代わる救貧法である救護法が制定されたのは、1929(昭和4)年のことである。しかし、この救護法は、慢性的な不況の中で経費不足を理由に、その施行が延期されたが、競馬法の改正によって、ようやく財源を確保し、実施をみたのは1932(昭和7)年のことであった。以後、1933(昭和8)年には少年教護法と児童虐待防止法が、1937(昭和12)年には母子保護法が制定され、また1938(昭和13)年には民間社会事業を規制する社会事業法が制定された。
4.社会福祉の時代
我が国の戦後再建の過程において、国民生活の安定と社会的秩序の確保は緊急の課題であった。大衆的窮乏に対処するため、1946(昭和21)年に旧生活保護法、1947(昭和22)年には児童福祉法が、1949(昭和24)年には身体障害者福祉法が、1951(昭和26)年には社会福祉事業法がそれぞれ制定され、戦後社会福祉の骨格が成立する。
高度成長期に入ってから、1958(昭和33)年には、国民健康保険法が、翌1959(昭和34)には国民年金法が制定され、国民皆保険皆年金体制が成立し、以後、我が国の生活保障制度は社会保険を中心に展開し始める。社会福祉の領域では生活保護の比重が低下し、1960(昭和35)年には精神薄弱者福祉法(1998<平成10>年に知的障害者福祉法に改称)が、1963(昭和38)年には老人福祉法が、1964(昭和39)年には母子福祉法が成立した(1981<昭和56>年に母子及び寡婦福祉法に改正改称)。1971(昭和46)年には長年の課題であった児童手当法が成立し、ようやく福祉国家に仲間入りを果たすことができた。
5.今日の課題
かつての家族・近隣・地域共同体には、「和」という言葉に象徴されるように、古くから伝統的な相互扶助慣行があり、村落共同体は「家」を中心として様々な連合組織(家族・組合)等によって日常的に相互扶助が行われてきた経緯がある。
しかし、現在、地域社会としての機能は低下し、代わって個人主義が台頭してきた。
例えば、昔ならば、知らない人が歩いていれば、それだけで怪しまれ、犯罪が発生しても犯罪者が地域の中に溶け込むのは困難であったが、現在では他人に干渉せず隣人が何をしている人かさえ知らないことも珍しくなくなっている。このようなことから、他の先進国と同様、成熟社会においては、社会福祉制度の果たす役割は大きいといえる。
政府は、大正デモクラシーの時代から「平成の福祉改革」までの長い間、試行錯誤を繰り返し、様々な法律や制度を制定してきた。1980年代には、国庫補助金の削減、民間活力の活用などを中心に推進し、1980年代後半には、社会福祉の分権化、地域化、多元化、脱規制化、専門職化など、戦後社会福祉の骨格を見直し、現在と将来の福祉サービス需要に対応しうる施策のあり方を求める時代に入った。1990年には福祉関係八法の改正により、地方と地域を基盤とする福祉サービスの基盤が固められ、1995年には精神保健福祉法の制定により不十分ながら障害者に関する施策の一元化も実現する運びとなった。
さらに1997年12月には、介護保険法も成立し、従来、福祉サービスや保健サービスの一部として行われてきた介護サービスは、社会保険という財源調達方法によって提供されることになった、これによって、介護サービスも措置制度から利用者の申請と契約による利用制度に移行することになった。
介護保険制度導入以後、福祉はまさにビジネスとして生まれ変わろうとしている。今後の福祉サービスが、御上からの施しという概念から、権利としての福祉に転換することで、国民が安心して老後を迎え、国の財政(医療費の増大など)の悪化を防ぎ、社会資源である福祉従事者の社会的地位の向上が今後の課題である。
【参考文献】
- 星野貞一郎『社会福祉原論』有斐閣 2001年
- 中島恒雄『社会福祉要説』ミネルヴァ書房 2001年
- ミネルヴァ書房編集部[編]『社会福祉小六法2001[平成13年版]』ミネルヴァ書房 2000年
- 京極高宜『現代社会福祉レキシコン』雄山閣出版 1993年
■■■社会福祉の歴史的展開をまとめるのは結構難しい■■■
「我が国の社会福祉の歴史的展開についてまとめなさい」
という感じで、設題を出す方は簡単にいいますが、課題を提示された方は悩むものです。
まとめる領域が広いので、すべてにおいて詳細な解説をすることは難しいです。
各自、大学のレポート文字数制限を考慮しながら、書きだした文章を要約する作業が必要となります。
当レポートの場合、400字詰め原稿用紙8枚と指定されているので、割と冗長な歴史的展開の解説をすることができています。
しかし、大学によっては2000文字程度など、文字数が少ないケースもあり、より厳選した要約が求められます。
文字数が少ないからといって簡単とは限らないのが社会福祉士のレポートです。
それから、
「今日の課題」についても述べるよう指示がありますので、そのスペースも確保しておく必要があることもお伝えしておきましょう。
歴史的展開で文字数を食ってしまって、最後の「今日の課題」の部分が一言で終わってしまうと、アンバランスな印象を与えてしまうので気を付けましょう。
余談ですが、
当レポートは、私が大学1年のときに書いたレポートです。
- 社会福祉入門
- 基礎福祉演習
といった入門科目を、ちょっとかじったのと、
- 文章表現
- 福祉と教育
という科目くらいしか履修していない中で必死に書いた思い出があります。
しかも、当時はフルタイムで仕事をしながらのレポート書きだったので、毎日夜遅くまでテキストを読んだり、
教科書の内容を朗読したカセットテープを、会社の車を運転しながら聞いて学習していたのを懐かしく思い出しました。
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