社会福祉士レポートアーカイブ(政治学-設題1)
過去レポート保存庫
社会福祉士レポートアーカイブでは、私が過去に書いたレポートを原文のまま公開することを主旨としています。
そのため、、記載内容が古い制度のものであったり、社会福祉士指定科目でなかったりしますが、文章の書き方であったり、結論や意見の出し方については、読んでみて参考になる部分があるかと思いますので、ぜひ読んでみてください。
ポイント(学習ガイドより)
我が国で、国会は「国権の最高機関として、国民の生活に大きな影響力を持っている。それは、国会が、主権者である国民の代表機関であるからにほかならない。しかし、現実には、国家はそして代表者である国会議員は国民の信託に応えているのか、また、国民は主権者として政治にかかわってきたといえるのか。そのような視点でまず我が国の実態を明らかにした上で、現代のグローバル社会における議会制民主主義の問題点や方向性について考察すること。
科目概要(学習ガイドより)
政治学の学問対象は人間と政治(権力)に関する力学的な諸活動である。一方、社会福祉は、人間そのものに焦点を当てているが、これも政治の動向とは無関係ではいられない。そのような中で、社会福祉に携わる者が知っておくべき政治学の一般理論、福祉の原点である基本的人権が政治の世界でどのように確立してきたか等を、政治的自由と平等の文脈の中で理解する。さらに、社会福祉から社会保障全般に至るまでのその実践においては、政治が必ず携わっていることも実例を基に確認していく。
設題1
「現代社会における議会制民主主義の危機の原因とその再生についてのべなさい。」
現代は、今まで想像もつかなかったような変化が次々と起きる社会になってきている。自民党による一党独裁の時代である55年体制の崩壊・連立内閣の誕生、国境を超えた単一世界市場の誕生、環境破壊などの地球的規模の問題群など、皆そうである。このような変化の激しい社会にあって、我が国の旧態依然とした政治を改革することは大きな課題である。しかし、未だ政治改革は思うように進展していないのが現状である。
以下、設題に沿って、まず我が国の政治の概要・議会制民主主義について述べる。次いで、政治における癒着構造の一例を示し、現代のグローバル社会における議会制民主主義の問題点や方向性について考察していく。
1.我が国の政治の概要
我が国の政治は三権分立の形態をとっている。これは国の権力を1つの機関に集中させず、国会(立法権)、裁判所(司法権)、内閣(行政権)の各機関が互いに分立し、関係、抑制し合うことで権力の均衡を保ち、結果として権力の行き過ぎを防ごうとする考え方からきている。
中でも国会は、主権者である国民の代表機関であり、政治において重要な機能を果たしている。国会は衆議院と参議院の二院制である。衆議院議員の任期は4年と短く、内閣不信任案が可決された場合は議会の解散がある。
一方、参議院議員の任期は6年で、解散はなく、3年おきに半数ずつ改選されるのみである。このことから衆議院の方が、より民意を敏感に反映できると考えられ、法律案や予算の議決などでは、権限において衆議院の優越が認められている。
また、両議院には、政党がある。それは与党(政府側に立つ党)と野党(政府と対立する立場の党)である。国会では様々な法案を通す時には、この与野党が、議論を交わし、議会制民主主義が展開される。
2.議会制民主主義
議会制民主主義とは、国民が選んだ代表者(国会議員)の組織する議会を国家意思の最高決定機関とし、間接的に国民の意思を国家の意思決定に反映させる民主主義である。
古代ギリシャの都市国家(ポリス)では、市民全員が広場に集まり、討論し、政策を決定していたが、現代国家は規模が巨大過ぎるため、直接民主主義の実現は困難と考えられている。
ちなみに民主主義とは、集団としての意見や行動を取り決める場合に、可能な限りメンバー、一人ひとりの意見を反映しようという考え方のことである。民主主義を実現するためには、メンバーに平等な発言権があることを前提として十分な討論をして意見の一致をみるというのが理想的である。しかし意見が一致しない場合は多数決というルールをとることになる。
3.議会制民主主義の危機の原因
議会制民主主義は、できるだけ多くの民意を政治に反映させることが本旨である。しかし、実際には、政治家、業界団体、官僚などの少数派のアクターが、互いの既得権益を守るための政治行動が横行している。多数の民意が反映されるはずの議会制民主主義が、少数の既得権益を守るために機能しているという現象は、何故起こるのだろうか。
その原因の1つは、選挙における投票率の低下、すなわち国民の政治意識の低下にあると考えられる。特に若者の中には、現職の総理大臣の名前すら知らない者がいるという。ここに議会制民主主義の危機の原因がある。
4.議会制民主主義の問題点
何故、国民の政治意識が低下すると、少数派の既得権益が政治に反映されることになるのかについて「自動車の車検制度」を例として取り上げ、説明する。
ここで、仮に「車検制度」に対する民意を多数派と少数派に分けて考えてみる。
まず、多数派である自動車ユーザーの民意は「日本の車検は費用が高い。車検制度が始まった当時の自動車と現在の自動車の性能の違いを考えれば、車検制度という規制は、緩和すべきである」だとしよう。
次に、少数派である整備工場などの業界団体の民意は「車検制度がなくなることは死活問題なので、車検制度の存続を求める」であるとする。
2つの民意に対して、政治家、整備業界、官僚、といったアクターは、各々の利益に従って、次のような行動を取ると推測される。
①政治家(国会議員)
政治家にとっての利益は、選挙に当選し続けることである。なぜなら政治家は選挙に当選して初めて政治家と成り得るからである。したがって政治家は、民意の内容云々よりも、どの集団から、いかに票やお金を集められるかといったことに関心が向きがちになる。
②整備業界(業界団体)
自動車ユーザーと整備業界では、数の上では自動車ユーザーの方が多いが、便益の大きさが異なる。例えば自動車ユーザーは車検によって不必要な金銭的負担を強いられているが、車検制度を緩和するための、経済的・時間的コスト(車検費用よりもはるかに高額)を払ってまで改革をしようとは考えないのが通常である。
一方、整備業界にとっては、車検制度の存続は、収入や職業に関わる死活問題である。当然、車検制度の存続を唱えられる政治家に対して寄付を行うし、団体を結成し、集票活動を助けたりもする。結果として、政治家は整備団体に無関心でいられなくなる。
③官僚(役人)
車検制度を管轄しているのは国土交通省である。そこには業態団体に天下りをする官僚の存在がある。車検制度を廃止すれば整備業界の消滅につながる。それは役人の天下り先の減少を意味する。つまり役人も車検制度の存続に対して利益があることになる。したがって官僚は、業界団体の存続に有利な法律を作るために政治家や業界団体と癒着しがちとなる。
このようにして、政治家・業界団体・官僚の既得権益の構図が出来上がることになる。
5.議会制民主主義の再生
車検制度に限らず、類似した既得権益の構図は、他にも多く存在する。こうした悪循環を断つためには、国民全体が主権者として、高い政治意識をもって政治に関わる(投票する)ことが不可欠である。ここに議会制民主主義の再生の鍵がある。そのためには国民に「高い政治意識をもって投票しなさい」という精神論を唱えるだけでなく、国民が選挙において、より投票しやすいシステムを構築していくことも必要である。
例えば、近年急速に進歩しているマルチメディアの技術を利用した投票制度を開発することで、間接民主主義から直接民主主義への採用を図る「テレデモクラシー」という考え方がある。具体的にはインターネットを利用して選挙を行うことである。これには、セキュリティの問題や、情報操作による情緒的な世論に政府が動かされる危険性、といった多くの課題があり、すぐに実現することは困難であるが、十分に検討の余地はある。
現代は、変化の激しいグローバル社会である。特定の集団だけに利益をもたらす規制存続の政策は、やがてこれを突き崩そうとする新なアクターの出現を促すことになり、様々な分野での規制緩和は、ゆっくりでも着実に現実のものとなってくるだろう。ただし、それは、国民の高い政治意識と政治参加があって初めて実現するものであることを忘れてはならない。
【参考文献】
- 飯坂良明・井出嘉憲・中村菊男『現代の政治学』学陽書房 2000年
- 岡田憲治『図解 政治制度のしくみ』ナツメ社 2002年
- 加茂利男・大西仁・石田徹・伊藤恭彦『現代政治学〔新版〕』有斐閣 2003
- 北山俊哉・真渕勝・久米郁男『はじめて出会う政治学〔新版〕』有斐閣 2003
■■社会福祉士に政治学が必要な理由■■
社会福祉の専門大学といっても、大学と名がつく以上は、一般教養科目というものがあります。
主に一年次入学をした人が履修する科目となっています。
科目概要を読んでいただくと分かりますが、福祉系の大学の場合は、福祉と関連付けたテーマになりがちです。でも必ずしも福祉をネタに政治学のレポートを書く必要はないです。
設題や学習のポイントに特別な指定がない限り、テーマは書きやすいものを選択した方が早いです。
さて、この「政治学」という科目ですが、果たして社会福祉士に必要なんでしょうか?
「社会福祉士の資格さえ取れればいいのだから、政治学なんて履修したくない」
そのように思うのも無理はありませんが、政治を学ぶことは福祉にとって非常に有益です。
理由は、社会福祉の現場に出て、数年が過ぎると多くの人が、次のような不満を持つようになるからです。
- なぜこんなに冷遇されているのか
- ひたすら業務をこなしていくだけの毎日で疲れ果てている
- 現場が忙しすぎて自分の時間がもてない
- なんのための仕事なのかが分からなくなった
- いつまでたっても経済的に豊かになれない
私が感じた、現場での肌感覚ですし、主観ですが、上記のような不満を持つ福祉職は、確実に多数派として存在すると思っています。
なぜ、上記の項目が問題なのかというと、それが今だけの話ではなく、将来にわたっても継続していくと感じてしまうからなんです。
つまり、政治的に制度や法律を変えるなどしない限り、解決策が見つからないということです。
今回の政治学のレポート内では、「問題解決にあたっては、投票行動が大切である」と述べていますが、今になって思うのは、投票だけでは駄目だなということです。
これからは福祉職の経験者が、参政権を行使することがあってもいいのではないでしょうか?
それくらいの意識の改革があってもしかるべきです。
ちなみに、こうした意見をレポートに書いても大丈夫ですよ。
最近行われた都知事選の報道を見て感じたのは、立候補している人の肩書に、弁護士だとか、医師だとかの資格名が出されています。
なので社会福祉士が、その名称を肩書にして立候補してもまったくおかしくはない話です。
実際、一定の要件はあるものの、多くの人には参政権が保障されています。それを禁止しているのは、他ならぬ自分です。
現場で不満を募らせながら、献身的に奉仕労働することも美徳かもしれませんが、ほんとに社会を変えようと思ったら、やはり現場に埋もれているだけでは限界があるということです。
私の住んでいる自治体には、社会福祉士有資格者の議員がいます。
この人物の経歴をみると、現場出身ではありません。
短期間、現場にも出ていたようですが、経歴に書くための職歴程度で、たたき上げではありまぜん。
でも、これは社会福祉士の資格を活かして、福祉政策に携わるという、一つの成功モデルです。
議員として当選するということは、かなりのエネルギーが必要です。
簡単に議員になれる訳がありません。相当な苦労をしたと思います。
だから誰に批判されることもないのです。
ほとんどの人が目指そうとも思わない結果を出した訳ですから、相応の待遇が保障されているのです。
これからの福祉専門職は、ここに学ぶ必要があります。
政界に出馬することが唯一の正解ということではなく、ひとつの成功モデルとして、学ぼうということです。
もちろん他にも、路は存在します。
ここでは、経済的な側面について述べていますが、もちろん現場にいながら成功するモデルもあります。
- 投資を学んで副収入を得る
- スモールビジネスを起こして収益を上げる
他にも経済的成功への選択肢はありますが、要は社会福祉士はもっと社会を広く知る必要性があるということなんです。
一般教養科目は、そのために、ほんの少しですが役立つでしょう。
ですので、大学で一般教養科目を履修する機会があったら、ぜひ単位をとってみてください。
福祉の現場に埋もれているだけでは、いずれ限界がくるでしょう。
投票しても、なお社会が変わらないのなら、自分を変えた方が確実です。
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