感情労働のリスク対策

大阪府立病院機構「大阪精神医療センター」の男性看護師が入院患者を平手でたたくなどして顔に全治1週間のけがを負わせたということがありました。

患者は大声を出すなどしていたということですが、それ以上の具体的な行動は判明していません。

事の顛末の詳細が明らかにならないまま、ただ事実として、看護師の暴力があったということが報道され、当の看護師と所属法人にとっては、もはや言い逃れのできない状態となっています。

このニュースを見て思ったのは、精神障害者に対する現場では高度な感情コントロールが必要だということです。

ただでさえ看護師の仕事は感情労働なのに、精神障害者に対する看護はあり得ないほどハードルが高いものとなっています。

今回患者に暴力をふるってしまった看護師は
「感情をコントロールできなかった」
などと説明しているといいますが、まさにその通りで、精神科の看護師は並々ならぬ感情コントロールが要求される仕事です。

「精神科病棟で暴れる患者に対する男性看護師の心情の考察」
という論文があるくらいで、男性看護師は、実は精神科での需要があると昔からいわれています。

需要というのは、つまり精神科の患者が暴れたときに男性の体力が必要ということです。

ニュースだけを見ている一般の人は、ただ
「看護師が患者に暴力をふるった」
ということが印象に残るのかもしれないが、過酷な現場では誰もが患者に暴力をふるってしまう可能性を秘めています。

もちろん、暴力を容認するものではありません。暴力は絶対にダメです。

患者の立場に立てば、精神的な病に苦しんでいるのだから、患者を責められるものでは決してありません。

だが、現場では、常に高度な感情コントロールが求められ、職員は疲弊しきっている現状があります。

ここで、精神科における現場の事実を述べてみましょう。

  • 職員に暴力をふるう患者が存在する
  • 今回の事件のように患者に暴力をふるう職員も存在する

この2点です。

では、患者対職員が暴力で衝突した場合、悪いのはどちらになるでしょうか?

答えは、職員です。

患者に殴られたから正当防衛として殴り返した
というロジックは通用しません。

弁護士を通して、職員が職場の管理責任を問うことは可能でしょう。
つまり、患者から殴られることが予見できたのに必要な対策を講じなかったということに対する訴えです。

そうなると職場を辞める覚悟が必要ということになります。職場に対して全面対決を取る形になります。

このようなことをしてまで訴えが認められたとしても少額の賠償金をもらっておしまいです。

加害者である患者からはなんの謝罪もなし、職場からは去らざるをえないことになる。

裁判で疲弊して勝利したとしても、精神病院の体質は相変わらずというのが現実です。

訴えのメリットが少ないので、多くの人は患者から暴力を受けたところで泣き寝入りか、嫌気がさしての退職ということになります。

精神病院の職員にも精神があり人権があります。

しかし、現場では
「精神病院の職員はメンタルが強くなければならない」
という、それこそ精神論が横行しています。

つまり、感情を常にコントロールできないと務まらないということになっています。

感情労働のリスクが今回の事件に表れています。
今回は精神病院における事件でしたが、これは福祉施設であっても起こりうることです。

福祉施設における利用者への虐待や暴力は日々報道されていますよね。

医療や福祉の現場に勤務したことのない人からしたら、こんな暴力事件が起きる原因は、個人の資質の問題としかとらえられないことでしょう。

しかし、感情労働のリスクは個人の資質に関係なく誰にも存在します。

だからこそ、現場で働く人には、今一度現場に対する懐疑的な視点を忘れないことをお勧めします。

「嫌ならやめろ論」は、業種転換以外は逃れられない可能性が高い。
つまり、医療や福祉とはまったく関係のない職種に転職するならばいいが、別の病院や施設に転職しても感情労働のリスクからは逃れられないということです。

現場に対する懐疑的な視点というのは

  • そもそも暴力を受ける可能性があるところで働いている
  • 怒りをコントロールできなくなり、患者や利用者に暴力をふるってしまう可能性がある
  • ということです。

    こうしたことを前提としてリスク対策を練ることになります。

    一番いい対策は、長いこと現場にとどまることを避け、管理職になるなり、経営側に回るなり、まったく別業種に転換することです。

    嫌ならやめろ論に近いかもしれませんが、十分に準備期間を設けて現場から離れましょうという点が異なります。

    いつ現場を離れるのかが明確になっていれば、何があっても耐えられる可能性が高まります。

    逆に、いつまで現場にいるのかがわらからないまま、つまり将来に希望がもてないまま現場に立っていると、無意識に蓄積した怒りによって感情がコントロールできなくなる可能性が高まります。

    美しい理念やきれいごとで問題に対処しようとする人ほど感情労働リスクの罠にはまってしまうので、くれぐれも怒りには気を付けることをお勧めします。


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