特養おやつ死亡事故の判決はダメ
特養おやつ死亡事故を知っていますか?
2013年、長野県安曇野市の特別養護老人ホームで、おやつのドーナツを食べた直後に意識を失い死亡した利用者の注視を怠ったとして、業務上過失致死罪に問われた准看護師に有罪判決が言い渡された事故です。
介護現場におけるおやつ提供にどこまで注意義務があるかに注目が集まり、福祉や医療関係者を中心に、無罪を求めて約45万筆の署名が集まっていました。
これ、どう思いますか?
正直、あまりにも介護に携わる職責を重くみすぎていると思っています。
こんな判決が出た日には、もう介護現場は委縮するばかりです。
ドーナツどころか、食べ物はすべてトロミのついたものに強制変更するという話になってきます。
補足しておきますが、トロミをつけたからといって誤嚥の可能性は決してゼロにはなりません。
結局、福祉施設で食べ物を詰まらせて死亡してしまった場合、その責任は職員と所属法人にあるという話になってしまうので、本当に介護は危険な仕事だという結論になってしまいました。
これでは、いつだれが業務上過失致死罪に問われてもおかしくない状況です。
つまり、介護の仕事は(看護師として介助に入る場合も含みます)犯罪者になるリスクのある仕事ということになります。
この判決は非常に問題があります。
もちろん、亡くなられた方の遺族からしたら、施設や職員に対する怒りがあるのは当然のことでしょう。
過失の程度によって損害倍書がなされることは当然の権利です。
しかし、今回の事件のように、個人に業務上過失致死罪を適用するのは拡大解釈です。
これをいったら、転倒・異食・自傷・他害も含めて、すべて職員の注意義務が過大に課せられることになります。
当然ですが、施設で起こりうることすべてに対して注意義務を過大に課すことには無理があります。
マンパワー的にも、理論的にも、財政的にも絶対に無理です。
これでは、運が悪ければ犯罪者にさせられてしまうのが介護の仕事ということになります。
このような理不尽を避けるには、もう、お茶から食べ物から、すべてとろみをつけて、施設内にはすべてゴムのような床や壁を用意し、トイレットペーパーなど異食する恐れのあるものはすべて撤去して、利用者の自立的動作など無視した施設とするという恐ろしい介護をすることになりかねません。
こんな介護あり得ないですよ。
現場経験のある人ならばすぐにわかることですが、裁判官にはわからないことなのでしょう。
ちなみに業務上過失致死罪は、業務上必要な注意を怠り、それによって人を死亡させる犯罪をいいます。
職員に対してこんな重い罪を課しておきながら、
「介護の仕事は魅力的だ」
なんていえなくなってしまいました。
繰り返しますが、今回の一件を受けて、今後、同様の事件がゼロになることはありません。
構造的にそれは無理なのが介護なんです。
運が悪かったといえば、それまでかもしれません。
しかし、運が悪いからと言って犯罪者にされてしまってはたまったものではありません。
虐待で利用者を死なせてしまったというのとは訳が違うのです。
追記
2020年7月
この特養おやつ事件の無罪判決が確定しました。
7年の裁判の結果、やっと無罪となったわけですが、時間がかかり過ぎです。
ドーナツを詰まらせたといって、職員個人に責任を負わせる今回の裁判は無罪判決で当然の結果です。
もしこれが有罪になるという判例が出たならば、介護現場は委縮し、介護職を目指す人を絶命の危機にさらしていたことでしょう。
ご遺族からしたら納得がいかない結果かもしれませんが、これは無罪にすべき裁判だったのです。
今回の結果が有罪で終わったならば、日本の介護現場は、流動食しか出せないことになってしまいます。