後見人が横領に手を染める構造はこれだ
成年後見制度が注目を集めています。
高齢社会によって、需要が増えている。
後見人は、親族がなることもあるが、専門職がなることもある。
弁護士、司法書士、社会福祉士などだ。
誰が後見人になる場合でも、被後見人の財産を着服するなどの横領が頻発している。
まあ、親族がお金を使い込むというのは、よくある話で済んでしまうが、問題なのは専門職による横領事件の増加である。
弁護士ですら、お金に目がくらんで着服しているというのは、驚きです。
というのも、後見制度で横領がなくならない理由は、その報酬が安すぎるのが一因です。
東京家庭裁判所の東京家庭裁判所立川支部が示している、後見人の報酬の目安によると、報酬額は次のようになっている。
2 基本報酬
(1) 成年後見人
成年後見人が,通常の後見事務を行った場合の報酬(これを「基本報酬」と呼び
ます。)のめやすとなる額は,月額2万円です。
ただし,管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)が高額な場合
には,財産管理事務が複雑,困難になる場合が多いので,管理財産額が1000万
円を超え5000万円以下の場合には基本報酬額を月額3万円~4万円,管理財産
額が5000万円を超える場合には基本報酬額を月額5万円~6万円とします。
なお,保佐人,補助人も同様です。3 付加報酬
成年後見人等の後見等事務において,身上監護等に特別困難な事情があった場合に
は,上記基本報酬額の50パーセントの範囲内で相当額の報酬を付加するものとしま
す。
また,成年後見人等が,例えば,報酬付与申立事情説明書に記載されているような
特別の行為をした場合には,相当額の報酬を付加することがあります(これらを「付
加報酬」と呼びます。)。
つまり、基本報酬は、月2万円の場合が多いということです。
この金額は、後見人の仕事の責任の重さ、量を考えると、労働対価としては低いです。
財産管理額によって、報酬は上がることはありますが、かといって専門職が高額財産を所有している被後見人を、報酬目当てに選択できるものではありません。
そもそも、専門職が稼ぎを上げるための制度ではありません。
後見人を選任するのは、あくまで裁判所です。
結局、割に合わないのが、今の後見人の仕事だというのが共通認識です。
まじめにやろうとすればするほど、割が合わなくなる構造になっています。
しかし、一方で専門職は仕事を求めています。
高収入のイメージのある弁護士ですら、今は失業する人もいます。
かつては見向きもしなかった領域(後見業務や過払い金請求など)に進出してしのごうとする弁護士もいます。
司法書士や、社会福祉士だって同じで、専門職としての領域を広げるために後見業務を担おうとしているのです。
専門職が生き残るためには、収益を上げることが重要なはずです。
そもそも専門職の仕事には、お金がかかるというのは常識中の常識なんです。
そこを批判するのだったら、専門職に後見人を頼むのはよくないです。
それならいっそ報酬なんて0にすればいいんです。
そうすれば、全専門職は撤退します。
でもそれじゃ後見人の需要に応えられないですよね。
私が考える専門職の仕事には、以下のようなレベルが存在する。
- 一流の専門職は、法令順守の仕事をします
- 二流の専門職は、手抜きの仕事をします
- 三流の専門職は、不正を働きます
中途半端に低い報酬で、多くの責任を負わせようとすると、三流の専門職の仕事に近づいて、横領が起きるのです。
こんなことを言うと、なんて強欲な奴だと批判されるかも知れません。
でも、私は、あえて真実を述べます。
「お金なんて関係ない」
そういう人こそ強欲の塊だと・・・・・・
後見人が横領に手を染める構造を述べましょう。
まず、誰もが横領なんてこれっぽっちも考えず、社会貢献活動として、後見業務を始めます。
しかし、後見人は書類を提出すればいいだけの仕事ではなく、休みの日であっても電話で呼び出されたり、本業が中断させられる事態もたびたび起こる。
次第に、負担感が増してくることになります。
独立した専門職であれば、自身の事務所の日々の支払いや、収益について頭を悩ませているかも知れません。
そんなある日、被後見人の口座の残額を見て、その金額の多さに思わず絶句します。
「自分には、こんな金額は一生稼げないだろう」
人によっては、そのように思うかも知れません。
こうしたモヤモヤした意識で、後見業務をこなしていくうちに、あることに気づきます。
「私は、しなくてもいいことまでしている」
しなくてもいいこととは、例えば被後見人の直接的介護や、親族間の調整などです。
すると、次第に「仕方なくやっている」という感覚に陥ります。
そして「これくらいは報いがあって当然だ」という感覚になります。
その「報い」とは、つまり着服であったり、横領ということになります。
最初は、「お金なんて関係ない」と思っていたのが、気づいてみると横領罪で逮捕される事態になっている。
逮捕された専門職は、このような感覚になっていたことでしょう。
誤解のないように言っておきますと、多くの専門職は、法令を順守して、後見業務を行っています。
実際、一部の犯罪者によって、まじめに後見業務をしている人が偏見の目で見られていることもあります。
ここで、いいたいのは、今の後見制度には、上記のような心理状態に陥りやすい構造があるということです。
よく、専門職は、資格のはく奪を恐れて、違法行為をしにくいという意見がありますが、それはどうかと思います。
専門職である前に、一人の弱い人間です。お金には、人を変える力、それだけのパワーがあるのです。
だから、そのパワーを活かすことを提案したいです。
私が思うに、後見横領をなくすためには、次の要件を満たす人を選任するべきです。
まず「お金に対する恐怖がない人」です。
これは貯金の額が多ければいいという意味ではありません。
貯金がたくさんあってもお金が無くなることに対する恐怖はあります。大事なことは、経済的に自立していることです。
お金が減っても、それを補う手段がある人は、横領する必要がありませんので、後見人には向いています。
次に、後見業務を遂行できる専門的知識がある、もしくは、自発的に知識を得ようとする意欲があることです。
前者は専門職が、後者は親族が該当しますが、要件を満たしていればどちらでもよいでしょう。
この2つの要件を満たしていれば、横領の起きる可能性は低い。
われわれ社会福祉士が、後見業務を担おうとするならば、経済的自立をすることと、専門的知識を向上させることが大切です。
特に経済的自立を果たすことは、社会福祉士にとって大きな目標であるのです。
さもなければ、感情のコントロールが効かずに、気が付いたら横領に手を染めていたなんてことになりかねません。
これは紛れもない真実です。