社会福祉士レポート実例(社会心理学-設題2)

集合行動

社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ

実際のレポート作成例をここに提示します。
 この設題では、集合行動の社会心理という言葉を最初に定義することが重要です。
逆に言うと、定義ができれば、あとはそれに従って論じていくだけになります。
学校によって、レポートの指定字数は異なりますので、もし2000字程度でまとめる必要があるのならば、最初の「集合行動」の定義の的を絞ってから解説すると、字数を減らすことができますので参考にしてみてください。
当レポートは3000文字程度で書かれています。

設題2

「集合行動の社会心理について論じなさい。」

はじめに
 集合行動というのは簡単に言えば、多数の者が共に行う行動のことである。正確に言えば、あまり組織的ではなくて、その生起・展開の様相を正確に予測することが困難で、かつ人々の相互刺激により拡大発展していくことを意味する。
 具体的には、⑴群集状況における個人の心理状態により作用される行動様式である「群集行動」、⑵活動的ないし表出的な群集である「モッブ」、⑶通常は従属的地位に置かれた群集が起こす敵意噴出行動である「暴動」、⑷情報の伝播過程において内容の事実認識が検証されないまま情報が社会集団に拡がっていく「流言」、⑸特定の目的のために意図的に捏造され、流布される虚偽の情報である「デマ」、⑹恐怖や不安の事態に際して群集がとる逃走行動である「パニック」などがある。
 ただし、組織的・制度的な集団・団体の行動や、相互作用の皆無な人々の個人的行動などは、集合行動から除外される。集合行動の現象的な特徴には、⑴成員に共有される明確な目標や永続的集団意識がない、⑵特定の地位・役割が分化していない、⑶既存の規範から逸脱している、⑷成員間の相互作用が一時的といったものがある。
 このように集合行動を捉えたところで、以下に集合行動の社会心理について論じていく。

1.心理学的立場から観た集合行動
 集合行動は、古くから社会学者や社会心理学者によって研究されてきた。とりわけ有名な人物は、19世紀末におけるフランスの社会学者ル・ボンであろう。その著作『群衆心理』は今日における集合行動研究の内容と方向性を定めた基礎的な古典ともいえるものである。
 ル・ボンは、群衆状況にあっては各個人の意識的な個性や合理性は失われ、群衆は異なる集合心を持つに至るのだとした。そして、群衆心理の一般的な特質として、⑴同質性・匿名性・過激性、⑵被暗示性、⑶情緒性、⑷無批判性・非論理性、⑸無責任性などを挙げている。ル・ボンの考えの中でも、群衆の集合心が生じるために必要な、刺激の影響については「多数の個人が、同一場所や時刻に存在することを必ずしも要件としない」という、いわば群衆を離散的集合体を含めて広く捉える点は、マスメディアの発達した現代においても通用する理論であるといえる。
 ル・ボンの著作には、人種差別の偏見があるとか、群衆を「自ら考える力を有する個人と同様に扱う」点で精神主義的過ぎるなどの批判が存在している。しかし、集合行動に関する文献の多くに『群衆心理』からの引用が見受けられるなど、パーク、バージェス、ブルーマー、タルド、ターナー、キリアンといった多くの学者に強い影響を与えてきた。その結果、⑴感染説、⑵暗示・模倣説、⑶収斂説、⑷規範創出説など、心理学的な立場から集合行動を説明する理論が展開されてきた。ル・ボンは、現代の集合行動の研究に重要な役割を果たしてきたのである。

2.社会学的立場から観た集合行動
 一方、社会学的な立場から集合行動を説明したスメルサーという社会学者の理論もある。これは、集合行動を「社会的行為の構成要素を再構成する過程」として捉えた理論である。
 スメルサーは、社会的行為の構成要素として、⑴価値、⑵規範、⑶組織化された行為のための動機づけの動員、⑷状況的便益を挙げている。これらの要素は、通常、一定の秩序を保って結びついているが、何らかの原因により、構成要素の関係が崩れた場合「ストレーン」が生じることになり、これを解決しようとする意志が人々の間に発生することに起因した、社会の再編成を目指した行動が、即ち集合行動と考えたのである。
 ストレーン状況を解決する手段は通常、社会に存在しているが、全てに対応できるとは限らず、その場合は非制度的解決法に頼ることになる。スメルサーはこれを「非制度的な行為の動員」とした。そして集合行動が発生する際の決定因として、⑴構造的誘発性、⑵構造的ストレーン、⑶一般化された信念の成長と拡がり、⑷きっかけ要因、⑸行為に向かっての参加者の動員などを挙げている。
 スメルサーの理論には、構造的ストレーンが客観的な社会条件を指しているのか、ストレーンに関する人の知覚を指しているのか不明確であるとか、構造的誘発性や構造的ストレーンの存在は事後的にしか推測できないから、一般仮説を提供するものでしかないといった批判がある。しかしスメルサーの集合行動論は、従来の集合行動に対する説明と比べて、全体的・整合的まとまりがあり、理論的体系性、包括性、整合性においても、現実の集合行動に対する説明力が高い点で優れている。

3.集合行動の実例と説明
 集合行動の実例として、古くはアメリカにおいてオーソン・ウェルズが「火星人が地球に侵入した」という趣旨のラジオドラマを放送したとき、それを聞いた人々が本当だと思い込んで、100万もの人が混乱行動をとったという一件がある。それから日本でも、関東大震災の時に、根拠のないデマや流言が独り歩きした結果、在日朝鮮人や自由主義者、社会主義者などが自警団に虐殺されるという悲惨な事件があった。
 その他、一人の女子高生の「信金は危ない」という一言から始まり、取りつけ騒ぎのパニックにまで発展した「豊川信用金庫の事件」は有名である。この一件は流言やデマの発生源まで突き止められた点で貴重なデータを得られた画期的な事例であった。からかいともいえる友人の何気ない一言が、人から人へと伝播していくうちに、当初は就職先に対する不安を述べていたものが、いつしか金融機関の倒産という、預金に対する不安へと変化し、終いには町全体の人が預金を引き出すべく我先に信用金庫に殺到し、取りつけ騒ぎとなったものである。基本的には、情報が伝播の過程で、平準化、強調、同化されていくためこのような事態が起こるのであるが、本件の場合、地域の共同体意識が強かったという地域特性や、オイルショックによる当時の社会不安など、他の要因も複合的に関係していたと考えられる。
 いずれにせよ豊川信金の一件は、心理学的な立場、社会学的な立場の両方から説明が可能である。
 例えば、心理学的立場の場合、冷静に考えてみれば、当時の金融機関は国に保護されており、倒産して預金が引き出せなくなることはないのだが、多くの人はパニックに陥った。これは、被暗示性、無批判性、非論理性、感染説、暗示・模倣説などによって説明できる。
 一方、社会学的立場の場合、金融パニックが起こるのは、社会に金融機関が存在し、多くの国民に利用され、自由に現金を出し入れできる状況、即ち「構造的誘発性」があるからといえるし、構造的誘発性と構造的ストレーンを刺激して一般化された、預金を全額引き出すという信念を発動することは「きっかけ要因」に該当する。さらに、流言を事実と確信し、周囲の知人に電話で知らせた行動は扇動であり「行為に向かっての参加者の動員」に該当するという説明ができる訳である。

4.結論
 集合行動は、多くの心理的・社会的な要因が複雑に絡まり合って生じる一度限りの現象であり、そこにどのような作用が生じているのかの説明については、これまで述べたように心理学的、社会学的な立場から、それぞれ可能である。しかし、いずれの理論も一長一短があり、一概にどちらが正しいとはいえず、またそうした議論は、社会心理学の本義に反する。それよりも重要なことは、先達の理論や過去の実例に学びながら、それを現代社会に応用していく姿勢であり、そこに集合行動の社会心理ついての答があると考える。

【参考文献】

  • 間場寿一「社会心理学を学ぶ人のために」世界思想社 1993年
  • 池上知子、遠藤由美「グラフィック社会心理学」サイエンス社 2001年
  • 井上隆二、山下富美代「図解雑学社会心理学」ナツメ社 2000年
  • 小川一夫〔監修〕「社会心理学用語辞典」北大路書房 1987年
  • 中島恒雄「社会福祉要説」ミネルヴァ書房 2001年
  • J.P.ペリー,Jr.、M.D.ビュー〔三上俊治 訳〕「集合行動論」東京創元社 1983年

社会福祉士からのコメント
レポートは、それを添削する教員に宛てて書くのが前提になっています。
ル・ボン、スメルサーといった学者の名前は、社会福祉士を目指す学生には、聞きなれない名前かもしれませんが、教員にとっては、ごく有名な人物です。
豊川信用金庫の例に関しても、関連書籍を調べると有名な話であることがわかると思います。
一般の人にとっては良く分からない例ですが、社会心理学の教員からすれぱ有名な話です。


ワンポイント

手間はかかるかもしれませんが、レポートを書き始める前に、図書館などで「集合行動」に関する本を手元に用意しておいて、部分読みするだけでも、レポートのアイデアを思い浮かべることができます。
著名な学者が書いた本に触れ、率直な感想をメモし、疑問を調査して自分なりの意見を述べる・・・・
難しい専門用語を記憶する必要はありません。
本の中で、誰が何をいっていたか、それに対して自分はどう感じたり、考えたりしたかといったプロセスがレポートでは大切です。


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