社会福祉士レポート実例(社会福祉援助技術各論ⅠA-設題1)

貧民街の子供

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実際のレポート作成例をここに提示します。
この科目は、社会福祉援助技術の中でもケースワークという各論を学ぶ科目です。
新カリキュラムにおける国家試験科目である「相談援助の理論と方法」に該当する科目です。
ケースワークについて学ばせることを目的に設定された設題となっています。
社会福祉援助技術の中でも、基本中の基本、それがケースワークです。

設題1

「個別援助技術(ケースワーク)の理論と内容について述べなさい。」


 個別援助技術(ケースワーク)における古典的理論の血流は、現代のケースワークにも相通ずるものがあるが、社会の急激な変化に伴い、その理論は多様化を呈してきている。
 そこで本設題では、個別援助技術(ケースワーク)とは何かについて、歴史的展開を踏まえながら、その理論と内容についての考察を深めていく。尚、各用語については、個別援助技術を「ケースワーク」、クライエントを「利用者」、ケースワーカーを「援助者」に統一して用いることにする。

1.ケースワークの歴史的展開
 ビクトリア朝が繁栄していた1869年のイギリスでは、富のある者から貧しい者に対しての慈善活動が行われていた。しかし、この活動には科学的な理論体系は存在せず、無差別・非組織的に行われていたので、漏救・濫救という問題を起こし、貧民の堕落を招く結果となった。この反省から次第に、慈善活動に科学や理論の必要性が求められるようになり、COS(慈善組織協会)が誕生した。COSの活動を軸にケースワークは徐々に理論化されていくことになる。
 しかし、当時はケースワークではなく「友愛訪問」という言葉が使われていた。友愛訪問には、貧困者を訪問し、その人格に影響を与え、救済に値する者になるように指導するという、貧民の道徳的改良に特徴があった。つまり、救済活動には科学性が必要としながらも、根底には「貧困に至る主要因は貧困者にあり、その人格を矯正する必要がある」という考えがあったといえよう。いわゆる「矯正の時期」といわれる所以である。
 ケースワークはイギリスで萌芽の時期を迎え、やがてアメリカに渡り発展していくが、援助活動が広がりを見せるにしたがい、それまでの経験主義的な援助技術に限界が生じるようになってくる。こうしてケースワークは専門化の方向に進むことになる。
 ケースワークの専門化は『社会診断』を著したことで知られる「リッチモンド」によって体系化が進められたといえる。リッチモンドの貢献により、やがてケースワークは発展の時期を迎え、診断主義や機能主義などの理論が登場し、論じられるようになる。

2.ケースワークの諸理論
⑴診断主義
 診断主義の特徴は、精神分析学に拠り所を求める点にある。利用者のパーソナリティにおける社会環境への適応力は、ケースワークによって強化できるとしているが、精神分析に傾斜することで、社会環境は軽視される傾向にあった。援助の展開過程は、調査-診断-治療という形態になる。診断は、利用者の自己決定によって行われるが、診断や治療を実際に行うのは援助者である。診断における、主導性は援助者側にあるため、この理論は診断主義といわれる。総じて、利用者のパーソナリティに目を向け、援助者が利用者に働きかける過程といえよう。
⑵機能主義
 機能主義は、利用者側が援助者に働きかける援助過程である。援助者と利用者の関係の枠組みとして、援助者の所属機関が持つ「機能」を重視する。援助過程において援助者は、自身の所属機関の援助機能を説明し、他方で利用者は、機関の機能を活用し、問題解決を図ることになる。総じて個人の精神病理よりも、人間のパーソナリティにおける創造的統合力を認める理論といえよう。


 診断主義と機能主義は、対立した理論として論争まで起こしたが、1950年以降は、それまでの理論が統合化の方向に向かう。「折衷主義」といわれる、パールマンの「問題解決アプローチ」や、ラパポートの「危機理論」などが有名である。
 ところが、理論というのは社会科学の発達や、文化の変化に影響を受けるので、これらに変化が生じることで、さらに新たな理論が台頭するのは自明である。「システム理論」や「生態学理論」がこれにあたる。
 以上、ケースワークの諸理論を述べたが、理論を実践に応用するためには、援助者の専門的態度として習得すべき「バイステックの原則」と、ケースワークの内容である「5つの要素」の理解が重要だと考えるので、以下にその概要を述べる。

3.バイステックの7原則
 バイステックの原則には、次の7原則がある。すなわち、⑴利用者を個人として捉える「個別化の原則」、⑵利用者の感情表現を大切にする「感情表出の原則」、⑶援助者自身の感情を自覚して吟味する「情緒関与の原則」、⑷利用者のあるがままを受け止める「受容の原則」、⑸利用者を一方的に避難しない「非審判的態度の原則」、⑹利用者の自己決定を尊重する「自己決定の原則」、⑺利用者の秘密を保持し、信頼感を獲得する「秘密保持の原則」の7つである。これらは、援助者が利用者と援助関係を構築するうえで、習得すべき原則として古くから容認されてきた原則である。

4.ケースワーク5つの要素
 バイステックの原則によって展開されるケースワーク過程は、まずは問題を抱えている「利用者」に対して「援助者」は「社会資源」を活用し「援助関係」を構築する。そして利用者と援助者は「目的」の達成に至るという流れになるので、ケースワークの「5要素」は以下の通りになる。
 すなわち、⑴ケースワークの対象者や、その家族のことである「利用者」、⑵利用者の支援を職務とする「援助者」、⑶社会福祉制度・援助者・社会福祉機関など、目的を達成するために必要な、物的・人的な要素である「社会資源」、⑷援助者と利用者が対等な立場で、援助者は利用者を受け止め、かつ利用者は援助者に信頼を寄せることが成立の要件である「援助関係」、⑸どの援助技術が使用されるか、誰が利用者かなどの基本事項を定めたり、利用者が本来持っている能力を発揮して問題解決を図る「目的」の5つである。

5.ケースワークとは何か(結論)
 ケースワーク実践で必要とされるのは、古典的理論の重要性を理解しつつ、多様なケースワーク論を踏まえ、時代背景や文化、もしくは利用者に応じた援助を行うことであるといえよう。現代社会が、かつてないほどの複雑化と、価値観の多様化を呈していることを考えれば、ケースワークの理論が流動性を帯びてくるのは必然である。今後のケースワークにおいては、ある一つの理論をもって、それが唯一無二の理論であると断言することはできないのであり、援助者が一つの理論に固執して援助を実践することには危険が伴う。
 このように踏まえた上で「ケースワークとか何か」という問いに答えると、次のようになる。
 すなわち、ケースワークとは、利用者との援助関係を通して、利用者が自らの潜在能力を発揮して問題を解決できように、利用者と社会環境に働きかける技術である。その技術領域の中には、利用者の精神状態を、心理学や精神療法などによって治療することは含めない。援助者が利用者に一方的に働きかける活動ではなく、かといって常に受け身で利用者が援助を求めてくるのを待つのがよい訳でもない。援助者と利用者の相互作用によって、その力を発揮するものとなる。

【参考文献】

  • 大塚達雄・岡田藤太郎『ケースワーク論 日本的展開をめざして』ミネルヴァ書房 1981年
  • 小松源助『ケースワーク論』有斐閣双書 1975年
  • 中島恒雄『社会福祉要説』ミネルヴァ書房 2001年
  • 福祉士養成講座編集委員会『社会福祉援助技術論Ⅰ』中央法規 2002年
  • F・Pバイステック(尾崎新・福田俊子・原田和幸 訳)『ケースワークの原則 援助関係を形成する技法』誠信書房 1996年

社会福祉士からのコメント
この社会福祉援助技術各論ⅠAは、4単位の科目で、レポートを計2本書くことになっていました。
設題1と設題2を書く上では、知識の使いまわしができます。
設題1で得たケースワークの知識は、設題2に活かされるということになります。
また、個別援助技術の知識や、バイステックの7原則の知識は、レポートのみならず、国家試験問題の事例問題でも必須の知識ですので、この際覚えてしまっても損はありません。



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