社会福祉士レポート実例(社会保障論-設題1)

社会保障

社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ

実際のレポート作成例をここに提示します。
これは、私が学生時代に書いた「社会保障論」という科目のレポートを再編集したものです。
ぜひ参考にしてみてください。

設題1

「社会保障の構成・要件と社会保障の機能について述べなさい。」

 社会保障とは、人々が疾病や老齢・死亡・その他生活上の様々な困難に直面した場合に、国家が所得保障・サービス給付を通して、人々の生活の安定を図ろうとするものである。
 日本では、憲法25条によって国家による国民の最低生活が保障されている。
 そもそも社会保障という用語は、英米では所得保障の意味で用いられていることが多いが、日本やILOでは、所得保障以外にも医療・社会福祉サービスまでをも含む概念として用いているのが一般的である。
 本設題では、まず社会保障の目的を理解した上で、日本の社会保障の概念に基づいて、その構成・要件と社会保障の機能について述べていく。

1.社会保障の目的
 社会保障の目的は、主に2つある。
 第1は、新たな福祉理念の実現である。それは、すべての人が権利として社会保障を受けることができる「普遍主義」の理念と、要介護などの状態になっても、誰もができる限り住み慣れた住環境と人間関係の中で介護を受け、ノーマルな生活ができるのが好ましいとする「ノーマライゼーション」の理念の実現である。
 第2は、社会保障財政の逼迫による財政上の経済的要請という目的の実現である。近年、人口の高齢化・普遍主義の浸透・ノーマライゼーション理念による福祉生活の質の重視、人々の福祉ニーズの高次化に伴って、社会保障の支出は増加の一途をたどっている。
 これらを同時に実現することが社会保障の目的である。

2.社会保障の構成
 社会保障は、社会扶助と社会保険が中心となって構成されている。それに社会サービスが加わる。以下にそれらの特徴を述べる。
①社会扶助
 社会扶助には、公的扶助・社会手当がある。
 公的扶助は、憲法25条の生存権の保障を具体化したものてある。自らの資産・能力・その他あらゆるものを活用しても、なお生活が維持できない人に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、自立を助長する。
 社会手当は、無拠出の給付で、支給対象に該当する人の申請に基づいて支給される。児童手当・児童扶養手当などがある。財源は、税、もしくは事業主の拠出である。
②社会保険
 社会保険には、年金保険・雇用保険・労働者災害補償保険・医療保険・介護保険がある。
 年金保険は、老後の所得を保証するものである。被用者は退職すると収入がなくなり、自営業者も高齢になれば体力が低下し、収入は低下する。こうした収入の低下を補うのが年金保険である。国民年金・厚生年金保険・厚生年金基金・国民年金基金・農業者年金基金・各種共済組合がある。
 雇用保険は、雇用の継続や再就職を促進するため、労働者が育児休業した場合、60歳以降も雇用される人の賃金が低下した場合、失業した労働者が再就職する場合などに給付金が支給される。
 労働者災害補償保険は、労働者の業務上・通勤途上の病気・怪我・身体障害やおよび死亡に対して補償給付を行うと共に、労働者の福祉に要する事業を行う。
 医療保険は、業務以外の病気や怪我について医療と医療費、また療養中の生活費の保障を目的とした社会保険である。全ての国民はいずれかの医療保険に加入することになっている。全国健康保険協会管掌健康保険(旧政府管掌健康保険)・組合管掌健康保険・国民健康保険・各種共済組合がある。
 介護保険は、介護を必要とする高齢者に対して、在宅、または施設において各種の介護サービスを提供するためのものである。
③社会サービス
 社会サービスとは、一般的な社会生活をする上で、個人の力量では解決できない生活上の問題を公的に解決し、生活上の便宜を公共的に提供することをいう。広義・狭義の意味での社会福祉を含めていう。具体的には、児童・老人・障害の分野における各種手当や割引制度、保育サービス、日常生活支援サービス、施設介護サービスなどがある。

3.社会保障の要件
 社会保障の要件は、国家の責任と負担を原則として、全ての国民に最低生活の保障を実施することにある。そのためには、社会保険の機能を強化・存続させていくことが重要である。なぜならば大多数の国民が公的扶助を受けなければならない事態になれば、社会保障制度そのものが破綻してしまうからである。このような事態を避けるためには、あらかじめ社会保険の機能を有効に作動させることによって、国民の生活が急激に最低生活以下に低下することのないようにする必要がある。
 社会保障において、国家は、最低生活を保障するものであって、国民の生活全てを保障する訳ではない。しかし「個人の生活は個人の責任によって維持されるべき」という今日の資本主義社会の基本原則の中にあって、国家が全ての国民に対して、最低限の文化的な生活を保障することの意味は大きい。このことは、第二次大戦後から現在に至るまで、福祉国家の出現によって、資本主義の原理が多少なりとも変化したことを示しているといえよう。

4.社会保障の機能
 社会保障の機能には、貧困の予防や救済、生活と経済の安定機能、社会的統合機能などがあるが、いずれの機能も根本にあるのは国民からの税金や社会保険料が、どのように再分配されるかという、所得の再分配機能に帰結することになる。なぜならば、社会保障は所得保障であれ、保健医療保障・社会福祉サービスであれ、結局は金銭の力によって社会保障の機能を発揮する側面を拭いきれないものだからである。
 社会保障における所得の再分配機能には、例えば、(1)高所得者から累進税率によって高い所得税の負担を求め、これを財源として低所得者に対する生活保護費として支給する「垂直的所得再分配」、(2)同質の被用者で構成される医療保険により、健康な時に負担していた保険料で病気になったときに給付をける「水平的所得再分配」、(3)年金保険の給付を受ける世代と、費用を負担する世代の間で行われる「世代間再分配」などがある。

5.まとめ
 現代における社会保障は、人々の福祉や生活の質に対する意識が向上してきたため、最低生活の保障だけでは十分ではなく、先に述べた社会保障の目的を実現するレベルの社会保障であることが求められるようになりつつある。実際、近年の社会保障制度改革は、社会保障の目的を意識して行われる傾向にある。
 例えば、介護保険は、介護を社会保険化することで、社会福祉の選別主義から普遍主義への転換を促し、国民のノーマライゼーションの実現、さらには介護に要する公費の支出の抑制という社会保障の2つの目的を同時に達成する役割が期待されて成立した制度といえよう。しかし、少子高齢化や人材不足が深刻化する日本においては、福祉ニーズの高次化と、社会保障費の抑制は互いに矛盾する要素を抱えており、ここに社会保障における今後の課題がある。


参考文献
1.佐口卓・土田武史「社会福祉選書④ 社会保障概説」光生館 2003年
2.自由国民社編集部「現代用語の基礎知識」自由国民社 2004年
3.福祉士養成講座編集委員会「社会福祉士養成講座5 社会保障論」中央法規 2003年

社会福祉士からのコメント
大学の教員に出すレポートなので、学問的格調の高さを演出するために、あえて堅苦しい表現になっています。
あなたのレポートを添削する人がどんな人なのかを想定、もしくは分析して文章表現を考えましょう。これはアセスメントの訓練にもなりますし、会社で上司に報告書を提出するときにも使えるスキルです。

参考文献に関して
大学の卒業論文では、参考文献や引用箇所を厳密に特定することが求められますが、社会福祉士のレポートレベルでは、必ずしも厳密な引用表記は求められないここともあります。
今回の参考文献の表記に関しては簡略して書きましたが、大学によって、もしくは教員によっては、より厳密に書くように求めるケースもありますので、あなたの学校が推奨する方法に従いましょう。

コメントは受け付けていません。

サブコンテンツ

このページの先頭へ