社会福祉士レポート実例(臨床心理学-設題1)

カウンセラー

社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ

実際のレポート作成例をここに提示します。
 臨床心理学は、認定心理士を目指す社会福祉士にとっては、必須の科目です。精神保健福祉士のコースをとっている人の中にも、臨床心理学のような専門科目を登録している方は多いと思います。
私の場合は、大学での専攻が福祉心理学だったのでこの科目を履修していました。
ただし、そうはいっても社会福祉学部でしたので、レポート設題は、割と福祉寄りの内容になっているのがわかるかと思います。

設題1

「臨床心理学における人間理解の必要性および面接場面における留意点について述べよ。」

 合理化・システム化された現代の社会環境は、不登校や児童虐待といった、深刻な心の問題やストレスを頻発させる結果をもたらし、その解決策を求めて臨床心理学による援助が社会に認識されるようになってきている。ここでは、こうした社会背景をもとに臨床心理学における人間理解の必要性、および面接場面における留意点などについてまとめていく。

1.臨床心理学における人間理解の必要性
 臨床心理学は、心身の不調や環境への不適応に悩む人々に、主として心理学的な知識と方法によって援助の手を差し伸べ、人々の心の成熟と治癒に役立とうとするものである。それは実践的な学問であり、クライアントの心の問題を解決する意味を含むものである。
 しかし、人の悩みは多様であり、その悩みに対する最良の援助方法もまた多様である。例えば、不登校で悩む少年A・Bに対して、それぞれ同じ援助をしても成功するとは限らないことは容易に想像できるだろう。つまり、最良の援助は個人により異なるのである。
 クライアントにとって最良の援助を実施するためには、クライアントをできるだけ正確に理解することが先決である。なぜならクライアントを理解しなければ、その人にとって意味のある人生とは何かを見つけ出すことはできないからであり、相手を理解していないのに治療を施せば、その症状をさらに悪化させてしまう危険性もある。つまり、ここに臨床心理学における人間理解の必要性が存在する。
 しかし、価値観の多様化している現代において、人の理解には困難が伴う。ましてクライアントと治療者は、異なる過去と環境に影響を受けきた存在であるから、この両者が出会い、相互の理解に到達するには、相応の努力が求められる。しかもその努力は、問題を抱え、助けを求めているクライアント側に期待することは、通常できないのであり、多くの努力は治療者からクライアントに対してなされる。治療者はこのような困難を踏まえ、クライアントを理解していくことになる。

2.クライアントを取り巻く環境について
 クライアントの理解には、クライアントのみならず、その取り巻く環境も含めての理解が重要である。
 例えば、不登校に悩む少年がいたとする。この少年に対して、ある人は「不登校は本人の意志が弱いからだ」と考えるかもしれない。今や不登校は特殊なことではなくなってきているため、さすがにこのような意見は少数派であろうが、もし治療者に、このような考えがあるとしたらクライアント理解への到達には程遠いと思わなければならない。
 なぜなら、不登校の理由は、少年本人のみならず、家庭環境の要因も関係していることが多いからである。治療者は両親に対して面接を行い、子育ての詳細な過程や、両親の子育て観などを理解するよう努める必要がある。そのため治療者は、両親の無意識に注目することで、少年が不登校に至った理由について考察するもの一つの方法である。
 治療者が過去の子育てを辿っていくのは、親に子育ての責任を追及するためではない。不登校の少年を取り囲む、家族という環境を理解することで、その知識を少年個人の問題解決に適用するために行うのである。「無意識は意識の奥底にあり、人間行動の源泉や動機になる」とはフロイトの言であるが、親が無意識に子供を自らの都合(親の望む方向に子の進路を強制するなど)のために子供をコントロールしてなかったかや、子供の意思を尊重せずに勉強ばかり強要していなかったかなどについて分析していくことは、クライアントに対する理解を深める上で有意である。

3.面接場面における留意点について
 面接は、少年本人に対しても行う。面接における「人を理解する上での重要なキーワード」は、受容・共感・傾聴であるが、これらはロジャーズの自己理論に基づくカウンセリングと関わりが深い。
 例えば、受容・共感はロジャーズの言うカウンセラーの態度条件である「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」とほぼ同義である。傾聴はカウンセラーの態度条件をクライアントに伝えていくプロセスに該当する。そして傾聴の結果、ラポール(信頼関係)が形成されると、クライアントは治療者に対して「この人は何をいっても怒らず裁かず私の話を聴いてくれる」と感じてもらえるようになり、治療者はクライアントをより深く理解できるようになるというのがロジャーズの考えである。これらは面接における留意点そのものといえる。
 ロジャーズの考えを、不登校の例に当てはめ、少年を理解するために必要な留意点として述べると次のようになる。
 まず少年の話に耳を傾ける(傾聴)ことである。これは簡単なようで難しい。悩みを抱えている少年の話はときに分かりづらく、話が飛躍したり、矛盾することがある。こうした少年の話に対しては、時折話を要約するなどして「今あなたの述べたことは、こういうことですか?」という感じで話を明確化していくことが大切である。次いで、少年を何ら批判をせず共感を示すことも必要である。共感とは「クライアントの内側の世界をその立場のように感じ、同時に自分を失わないこと」であり、同情や同意とは異なることに留意する。そして不登校という社会的に観て好ましくないとされる部分をも含めて治療者が少年を尊重し、受け入れる(受容)ことが大切ということになる。
 ただし、ロジャーズの自己理論(来談者中心療法)は、自己中心的過ぎる人、幼児、知的障害者などには不向きという短所があるため、他の人間理解のための理論(学習理論、精神分析学の諸理論など)を状況に応じて使い分けることも必要である。
 このように、クライアントを理解するということは、まさに人の心の中に踏み込んでいく行為そのものであるため、治療者には高度な倫理観が要求される。クライアントを傷つけるような言動は、意識的にも無意識的にもあってはならない。さらに職務上知り得たクライアントの秘密は、人命に関わるなど特別な場合を除き、徹底して保持しなければならないし、クライアントを自らの利益のために利用することも許されないのである。

4.まとめ
 今後、社会がますます合理化・システム化、複雑多様化していくにつれて心の問題を抱える人々は増え続けることが推測される。もはや悩みがあることは誰にとっても当然のこととなっている。病気が一つくらいある方が、無病の人よりも健康に注意し、かえって長生きできることの例えに「一病息災」という言葉がある。この言葉は心の病にも当てはまるように思う。悩み苦しみながらも、自らの心の病と向き合い、ときに治療者の援助を受けながらも対処していくことができる。そういう状態が、真に心の健康を意味するということではないだろうか。

    【参考文献】

  • 中島恒雄「保育児童福祉要説」中央法規 2004年
  • 永井徹「不登校の心理 カウンセラーの立場から」サイエンス社 1996年
  • 牧正興・高尾兼利・平山諭「臨床心理学の理論と実践」ミネルヴァ書房 2002年
  • 水島恵一・岡堂哲雄・田畑治「カウンセリングを学ぶ」有斐閣 2002年

社会福祉士からのコメント
教科書に書いてあることを読んで、レポート設題に答えられるようにレポートをまとめていくと、最後の結論や、まとめのところで、答えがチグハグになることがあります。また、結論に、論破できる致命的な欠陥が発見されることもあります。
でも、完全な結論を導くことにあまりこだわるのはよくありません。
本来ならば、レポートを書きだす段階で結論が明確になっていることを目指すべきですが、必ずしも理想通りにはいきません。
序論・本論をまとめた後になって、結論が出てこない、上手くまとまらないということがあると、それまでにまとめた文章を書きなおす作業が必要になります。
その書き直す作業にしても、参考文献の追加・変更が必要になるレベルの修正だと、あまりにも時間的なロスが大きいです。
でも、安心してください。
学生の出した結論や意見に対してあげあしをとるような教員はまずいません。
仮に間違いを指摘したとしても、それをもって落第にするようなことはないです。
大事なことは、結論ではないです。
人間社会に起きる事象を扱う問題で、ただひとつの正解はほとんどないからです。
例えば、1+1=5のような計算問題であれば、絶対的な間違いといえますが、人間に関わる問題に絶対的な正解はないですよね。
その辺は教員も十分に承知しています。
気を付けるべきは「なぜそのような考えに至ったのか」という部分の説明です。
ここには工夫することが必要です。
教員に対して「なるほど、そういうことだったのか」と感心させたり、懸命に学習していることが伝わる文章であれば、自然と高評価が得られるからです。


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