社会福祉士レポート実例(心理学-設題1)

鳥類

社会福祉士のレポート作成にお悩みの方へ

実際のレポート作成例をここに提示します。
 心理学は、社会福祉系の大学のほとんどで開講されている科目です。社会福祉士の養成課程における選択科目のひとつとして存在する「心理学理論と心理的支援」に該当する科目です。
 また、実務的にも心理学を学ぶことは、非常に有益ですので、ぜひとも履修しておくことをお勧めします。

設題1

「人格形成に及ぼす環境要因とその役割について述べなさい。」

 心理学において「人格」と「性格」という言葉は、ほぼ同義語として扱われることが多い。その個人を特徴づけている全体的な行動様式を指すのが人格であり、人格のなかでも、特に情緒的、意志的な側面の特徴を強調するときに用いられのが性格である。そして「気質」とは、個人の生理学的過程と関連付けられ、先天的に決められているものと考えられており、パーソナリティの下位概念とされているものである。
 気質が両親からの遺伝に関係し、かつ、その両親と長期に渡って生活を共にするという意味で、人間の人格・性格が形成される要因として、生育環境が最も強い影響を及ぼすと考えるのは、無理のないことである。
 本設題では、人格形成に及ぼす環境要因が生育環境にあるという仮説のもとに、人格形成に及ぼす環境要因と、その役割について考察する。

1.親の養育態度の影響
 子供が、それぞれ個性的に行動するのは、ある日突然に生じる現象ではない。長い時間の間に、外的な環境から受けた影響によって成長した結果、徐々にそのような行動を示すようになったと考えるのが自然である。子供の年齢が低いほど、外的な環境を受ける度合は強く、特に3歳児未満の場合、親の養育態度によって、子供の人格形成は大きく左右されやすい。
 託摩武俊は、もし親の養育態度が支配的であるならば、子供は、服従・自発性なし・消極的・依存的・温和といった性格になる可能性が高く、逆に甘やかしの態度で養育すれば、わがまま・反抗的・幼児的・神経質になるとしている。さらに託摩は、親の養育態度として、かまいすぎ・服従的・専制的などを示しているが、それらに対して子供がどういう性格になるかというと、いずれも、社会的に好ましくない性格になってしまうことを述べている。唯一、養育者の態度が、民主的な態度の場合のみ、独立的・素直・協力的・親切・社交的というように、社会的には好ましい性格の子供になるとしている。

2.環境要因が与える影響の実例
 子供が環境的要因である生育環境、とりわけ養育者に影響を受けやすいことの実例として「インプリンティング」を例示する。
 比較行動学者の、o.ハインロードは、アヒルやガチョウなどの早成性のひな鳥が、孵化した直後において、最初に見た動く対象の後(ハインロート自身)をついて歩くようになる現象を発見し、ある仮説を立てた。それは「早成性の鳥類は、孵化後のある時期、自らの種族が、どのように見えるのかを学習する時期があるのではないか」というもので、その後ハインロートは、実験によって、その事実を確かめることに成功した。そして、このような出生直後に起こる経験効果を「インプリンティング」と名付けた。
 この実験によって鳥類は、生まれてから最初に見た動く物体を「親」と認識するということが分かった。また、この現象の起きる時期は孵化直後、限られたごく短時間のうちのみに起きるということである。そして、この時期を臨界期という。
 このインプリンティングを、即人間に当てはめて考えるのは、やや強引であるものの、人間にもある時期、臨界期が存在し、その時期に何を体験するかで、その後の人格形成が決定づけられると考えるのは、無謀なことではない。そして、臨界期という考え方を若干拡張し、人間行動を観るための可能なモデルとして考えた場合、初期発達における特定の型の経験(養育者に愛情を注がれるなど)の欠如は、その後の生活における様々な行動に対して、非可逆的結果を生じさせるという答えを導くことになる。
 人間は、他の動物に比べ、未熟な状態で誕生する。成長速度も、鳥類に比べて遅い。つまり、人間においての、非可逆的なインプリンティングの臨界期とは、生後から、3歳くらいまでの時期であり、この時期に何を経験するかで、その後の人間の人格形成に大きな影響を与える時期といえる。

3.子供の養育者に対する態度
 ここまでは、環境要因である親の養育態度が子供の人格形成を決定づけるとしたが、逆に子供の態度が、養育者の態度を変化させるという一面も存在する。
 例えば、学校での成績が悪いという理由で、親が子供を叱りつけるとする。そこで子供が、どういう反応を示すのかによって、その後の親の態度に変化が生ずることになる。叱責後、子供に、深く反省した様子があるなら、親はとりあえず、それ以上子供を責めることはしないであろう。逆に、子供が無気力な態度を示せば、親はさらに躍起になって子供を責め立てるかもしれない。もちろん、全ての養育者が、同様の態度を取るとは言えないが、いずれにしても子供の態度が養育者に、良くも悪くも、何らかの影響を与えていることは事実である。つまりこれが、養育者と子供の間にある相互作用である。

4.結論
 ここまでで、人格形成は子供と養育者の相互作用であるとしたが、スティーブン・R・コビィーは、「自覚という能力があるからこそ、自分の経験だけでなく他人の経験からも学ぶことができる」とした。すなわち人間には自分の考えそのものを考える自覚という能力があり、この能力は人間にしかない者であるとして、動物と人間とをはっきり区別している。そして人間は他人の経験を、自分のものとして置き換えることも可能であるとしている。また、コヴィーは「人間は外的な環境から刺激を受け、反応するまでの間に、スペースを持っているとし、刺激に対する反応を自分で選択することが可能である」としている。
 ただし、この場合の自覚の能力とは、ある程度成人に達した大人に備わっているものと考えるべきで、少なくとも3歳以下の幼児には無い能力と考えられる。そのかわり、幼児が大人になってから、自覚と自由意志の力を発揮し、環境要因によって形成された人格に変化をもたらすことは不可能なことではない、つまり、環境要因による人格の形成には、避けがたい作用があるけれども、同時にそれを修正する力も人間には備わっている。人格形成に及ぼす環境要因とその役割は、環境と人間との相互作用による成長にあるといえる。

【参考文献】

  • 福祉士養成講座編集委員会「心理学」中央法規出版 2001年 48頁
  • 佐治守夫(編)「人格(講座心理学10)」東京大学出版会 1972年
  • 瀧本孝雄・鈴木乙史・清水弘司(編)「性格の心理」福村出版 1985年
  • 託摩武俊・星野命「性格は変えられるか」有斐閣 1972年
  • 託摩武俊(編)「性格の理論(第2版)」誠信書房 1978年
  • 星野命・河合隼雄(編)「人格(心理学4)」有斐閣 1975年
  • 南博(監訳)「パーソナリティ(図説現代の心理学1)」講談社 1976年
  • ロッター(託摩武俊ほか訳)「パーソナリティの心理学」新曜社 1980年
  • スティーブン・R・コヴィー「7つの習慣」キング・ベアー出版 1997年 78頁

社会福祉士からのコメント
 心理学のレポートは、過去に著名な心理学者が行った実験や、仮設、理論を持ち出して、「だからこう考える」というように論理を展開すると、レポートらしくなります。
 ただし、ある理論を持ち出したからと言って完全論破できる答は出せませんし、多数の反論に対してすべて論述することは、字数制限的にも無理ですので、ある程度のところで自分の意見として言い切ってしまってもいいでしよう。
 でも、説得力を持たせるためにも何冊かは、心理学系の参考書に目を通すことをお勧めします。心理学の教員は、著名な専門書を精読しているのが普通で、学生が多様な専門書を参考にしてレポートを書いてくると高く評価してくれる傾向があります。
 いまどきはインターネットの情報だけでレポートが書けるとしても、やはり紙媒体の著名な人物が書いた専門書は、引用するだけでも効果があるものです。



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