社会福祉士レポート課題アーカイブ(老人福祉論-設題2)

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ポイント(学習ガイドより)

 在宅福祉の概念や制度、現状を体系的に整理するとともに、現在施行されている介護保険制度についてもその現状や今後の課題について考察し、今後の方向性を自分なりにまとめていくこと。

科目概要(学習ガイドより)

 急速な高齢化の進展に伴い21世紀半ばには3人に1人が65歳以上という超高齢社会が到来することが予想される。このような現状をふまえ、現代社会における老人福祉の概念・意義について理解するとともに高齢者の精神的・身体的特徴や障害、老人福祉の社会的背景について考察する。また、老人福祉のニーズ、方法及びサービスの体系について学習し、高齢者に対する福祉サービスの現状について理解する。

設題2

「在宅福祉サービスの体系と介護保険制度について述べなさい。」

 在宅福祉における狭義の概念は「高齢や心身の障害などのために自宅での生活が困難になった人が、可能な限り住み慣れた自宅で生活ができるように、各種福祉サービスを提供すること」である。しかし本来は、施設入所型・在宅型を問わず、地域社会を基盤とした対人福祉サービスを意味する概念である。
 我が国の福祉は、少子高齢化、施設数の不足、福祉サービス利用者の基本的人権の尊重やノーマライゼーション思想の影響などを背景として「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略(ゴールドプラン)」の策定を皮切りに「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略の見直しについて(新ゴールドプラン)」を経て、現在は「今後5ヵ年間の高齢者保健福祉施策の方向(ゴールドプラン21)」の策定に至っている。さらに、1997年には「介護保険法」が制定、2000年には介護保険制度が動き出した。また、同じく2000年には、社会福祉法も制定された。これらのことから、我が国の社会福祉は、地域福祉・在宅福祉サービス重視へと方向づけられ、現在に至っている。

1.介護保険制度について
 在宅福祉サービス、とりわけ高齢者の在宅福祉サービスでは、介護保険によるサービス給付が大半を占めている。そこで、まず介護保険について大まかな内容を述べる。
 介護保険は、要介護者などに対して、社会保険方式によって、公的に介護を支える制度である。市町村と特別区が運営主体となり、65歳以上の人(第1号被保険者)と、40歳から64歳までの人(第2号被保険者)から保険料を徴収し、65歳以上の第1号被保険者が、寝たきりや痴呆などで介護が必要な状態になった時に、介護サービスを受けられる制度である。ただし、第2号被保険者であっても、老化が原因とされる初老期痴呆などの15種類の特定疾病により、要介護状態や要支援状態となった場合は介護保険の適用を受けられる。
 介護保険による介護サービスを利用するには、まず市町村に申請して、要介護認定を受ける必要がある。市町村は本人の状態を、身体的機能・知的能力・問題行動などを基準に調査し、主治医の意見を聞いた上で、介護認定審査会の判定に基づいて、要介護認定を行う。認定は6段階に分かれており、その区分によって受けられるサービスの内容が決まる。その後、ケアマネジャーによるケアプランが作成され(利用者や家族によるケアプランの作成も可)、介護サービスの利用が始まる。ただし、利用者は介護サービス利用料金の1割を負担することになる。なお在宅福祉サービスにおける保険の給付には要介護度に応じた支給限度額が設定されている。
 その他、介護保険は、サービス提供事業者として、民間企業の参入を広く認めたことで、企業間の競争原理により、良質な福祉サービスが提供されるよう配慮している点に特徴があるといわれている。

2.介護保険による在宅福祉サービス
 介護保険法第7条5項によって、在宅福祉サービスは「居宅サービス」に位置付けられている。これにより多様な在宅福祉サービスが提供されるようになった。
 例えば、⑴ホームヘルパーが、要介護者の居宅を訪問し、入浴・排せつの介護(身体介護)や、掃除・洗濯などの家事(生活支援)を行う「訪問介護(ホームヘルプサービス)」、⑵居宅の要支援者・要介護者に特別養護老人ホームなどに短期間入所してもらい、身体介護や日常生活上の世話、機能訓練などを行う「短期入所生活介護(ショートステイ)」、⑶要介護者などの高齢者を、デイサービスセンターに日帰りで通所してもらい、日常生活の援助や、機能訓練、入浴などのサービスを提供する「通所介護(デイサービス)」などがある。これを在宅福祉3本柱という。
 その他、介護保険の給付対象となる居宅サービスには、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション、短期入所療養介護、痴呆対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、福祉用具貸与などがある。

3.介護保険以外の在宅福祉サービス
 一方、介護保険の適用を受けない在宅福祉サービスとしては、自治体が主体となって行う「介護予防・生活支援事業」がある。2000年度より制度化されたもので、高齢者が要介護状態になることを予防したり、残存能力の維持・向上を援助する目的を持っている。対象は、主に虚弱要援護高齢者である。内容としては、配食サービス、寝具類洗濯乾燥消毒サービスなどがある。介護保険制度以前の市町村在宅福祉サービスが基になっているサービスであり、介護保険による在宅福祉サービスを補完するものである。
 また、市町村の措置による在宅福祉サービスもある。老人福祉法(第10条の4)では、やむを得ない理由があり、介護保険を利用できない高齢者に対しては、市町村が措置として「訪問介護」「通所介護」「短期入所生活介護」といった在宅福祉サービスを提供することができると規定している。
 その他、市町村が、地方自治法を根拠として行う自治体独自の在宅福祉サービスや、NPOなどの民間団体が主体となって行う在宅福祉サービスも存在する。

4.介護保険制度の課題と今後の方向性
 施行から3年が経過した介護保険制度は、多くの問題や課題が指摘されている。例えば、要介護認定におけるコンピューターの不正確さ、福祉従事者の労働条件の悪さ、利用者負担の多さなどがそれである。
 中でも、低所得者に対する利用者負担の軽減は、今後の重要な課題の1つである。これに対しては、高額介護サービス費という制度があるが支給限度額いっぱいまでサービスを利用しないと制度の対象外となる問題がある。つまり要介護度の低い低所得者の多くは、高額介護サービス費制度の対象外となり、自立と判定された低所得者は、少ない年金の中から介護保険料を支払うのみとなっている。
 ちなみに介護保険料を未納・滞納した場合は、給付率の引き下げなどの厳しい制裁規定が用意されている。特に国民健康保険加入の第2号被保険者が介護保険料を未納した場合は、健康保険証が取り上げられることもある。これは介護保険料の納入が、民健康保険と連動している関係でそうなるのである。
 つまり介護保険制度は、お金がなければ満足に介護を受けられないという図式を成立させている側面がある。こうした点を改善するところに今後の課題がある。
 しかしながら、実際問題としての介護保険は、財政的に破綻しない政策の実施を強く求められているのもまた事実である。これらの矛盾した問題を解決には、どうすればよいのであろうか。
 それは、国民全員で介護保険を支えていくことである。その具体策として、次の提案を提案する。
⑴第2号被保険者を20歳以上からとして、介護保険料を国民全体から広く浅く徴収する。
⑵高額所得者からは保険料を多く徴収する。逆に低所得者に対しては、保険料を現在より低額にする。
 介護保険制度は、まだ始まったばかりで多くの改善策を必要としている。今後は、介護保険制度施行後の現在でも、その運動が継続しているという「介護保険改善運動」のような社会運動が、継続的に行われることで、介護保険制度を、より良い方向に導いていくことが望まれる。

【参考文献】

  • 相野谷安孝、石川満、林泰則、山本淑子『介護保険の見直しの焦点は何か』あけび書房 2002年
  • 社会福祉辞典編集委員会『社会福祉辞典』大月書店 2002年
  • 福祉士養成講座編集委員会『老人福祉論 第2版』中央法規 2003年
  • ミネルヴァ書房編集部『社会福祉小六法』ミネルヴァ書房 2002年



■■介護保険制度は異質なものに変わった■■

このレポートは、介護保険制度施行から3年後に書きました。

認知症という用語を、痴呆という呼称で記述していたり、一部の記述は古い表記になっています。


このレポートを書いてから、現在に至るまで、介護保険には、多くの法改正や出来事がありました。

例えば、

  • 大手介護事業者コムスンの不正による解散
  • 家族と同居利用者の生活援助の不適用
  • 介護支援専門員資格の更新制化
  • 介護予防の考え方の導入
  • 地域包括ケアシステムの推奨
  • 地域包括支援センターの創設
  • 介護福祉士資格制度の度重なる改正延期
  • 介護支援専門員の受験資格改定と試験の難化
  • 一定所得以上の利用者の利用料の値上げ
  • 介護報酬の実質引き下げ
  • 介護人材不足の深刻化

ちょっと例をあげても、これだけの出来事が思い出されます。

個人的にはコムスンの消滅は大きな出来事でしたね

以下の画像は、コムスンの会社経歴書です。

コムスン経歴書1

コムスン経歴書2

コムスン経歴書3

コムスンは、最終的には不正行為をしてなくなってしまうのですが、革新的なサービスで顧客を獲得していたため、倒産の影響は多大でした。

介護保険創設前から、24時間対応型巡回介護サービスなど、先駆的な介護サービスを展開していたことかうかがえます。

まあ、いろいろあったけれども、介護保険がスタートした当時から介護に関わっている私としては、今の介護保険制度は、昔の介護保険制度とは異質のものを感じます

昔の介護保険は、もっと緩かった。

例えば、昔は、訪問介護にしても家事援助が非常に多かったんです。

利用者の家に行って「1時間掃除をして、お話しをして」なんてケアプランがあったんです。

複合型という、身体介護と家事援助のミックスしたプランもありました。

いまでは、そういうプランは非常に少ない(複合型は廃止)。

30分の身体介護で、やることだけやってハイさよなら

そんなプランが大半です。

生活援助は報酬が少ないですし、そもそも家族が同居の場合は生活援助ができないという話になっています。

レポートにも書きましたが、

民間事業者の参入による競争原理が働き、質の良いサービスを提供する事業者が生き残る

あのころの介護保険には、そんな希望がありました。

だから

いいサービスを提供すれば、事業所は発展をしていくだろう

そう思ってがんばっていました。

実際、いいサービスを提供している事業所は存在しました。


かつてのコムスンだっていいサービスを提供していた時期がありました。

で、いざ介護サービスを利用し始めた利用者は、その便利さに気付いたのです。

1割負担で家事サービスが受けられる。だから使わないと損

そんな風潮さえありました。

で、どういうことが起こったか?

介護サービスの利用量は、どんどん増えたのです

これは悪いことじゃないですよね。

でも、次に起こったことは、介護保険の財政悪化でした

そして、財政の引き締めという縛りが出てくることになりました。

家族と同居利用者の生活援助の不適用、介護施設におけるホテルコストの自己負担化などが代表例です。

もちろん今でも、財政の問題は解決していません。節約志向の制度改正をあざ笑うかのように、日本の高齢化は、どんどん進行していきます。

そして介護保険は新たな負担の方式を生み出しました。

一部利用料負担の値上げです

今回のレポートでは、結論として、若い世代からも保険料を徴収するという安易な考えを提案しているが、現在の介護保険料では、そのようなことにはなっていない。

現実には、一定以上の所得者に対する2割の利用料を求めるという方向に改正の舵をきっています。

要は、

所得の多い人は、利用料2割負担してね

という決まりです。

若い世代にこれ以上負担を強いることは、反発が起きますので当然のことですが、一部の人が2割負担であっても財政問題は、まだまだ解決しません。

公的介護サービス濫用の抑制には、一役買っているといえますが、ゆくゆくは消費増税という形で、世代に関わらず介護の費用を負担していかなければならないことにかわりありません。

結局、介護保険制度は「走りながら考える」と言われていたように、時間の経過とともに、今でも制度改正が繰り返されています。

悩ましい問題です。

レポートを書く際は、目まぐるしく変わる介護保険の制度改正に注意しながら、自らの問題意識とも絡めて文章を書いていくとよいでしょう。



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